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先生が説明してくれても、あたしの頭ではちっとも理解出来なかった。
最後に覚えているのは、自分が肉塊としてライカを食べたこと。殆ど消えかけていた意識の中で、微かにあいつの味を感じたことだけは分かった。
だけどその時、あたしは大量の銀の血を飲んだことで肉塊ごと死んだ筈だ。ライカはまだしも、こうして自分が生きていることが信じられない。
「……で、君達の体を繋ぎ合わせて、私が噛んで復活させたってこと」
「それで人間って生き返るんですか? 」
「人間じゃ無理だよ。だから狼人間にした訳さ」
納得は出来ないが、事実として自分がここにいるのだから仕方ない。
ライカの意識と体を乗っ取っているようで気まずいが、出てきてしまったからには有効に使いたいものだ……そう言えば、ここってどこなんだろう。
「あぁそうか。君は初めてだったな。ここはカジノのオーナー部屋だ」
「え、カジノってRomlusのことですか⁉︎ いやはや、先生ほどの人だと、そんなお店にも入れちゃうんですね……」
「そうだぞ。ちなみにここのオーナー、私の頼みならなんでも聞いてくれる」
それは流石に冗談だろう、と思ったその時。
部屋の外からバタバタと音が聞こえてきた。
「ちょっとちょっとラピスちゃん‼︎ 聞き慣れない女の声がするけど、勝手に他の人入れないでよ⁉︎ 仮にもワシの仕事場なんだからね‼︎ 」
扉を勢いよく開けたのは、小太りな中年の男性だった。
黄金の派手なスーツを身に纏っていること。そしてこの部屋に入れるということは、彼がここのオーナーだと考えるのが自然だろう。
「悪いねジャッケル。予想外の事態が起きて、一人が二人になってしまった……おいどうした。何か返事したらどうだ」
「……ひ」
ジャッケルと呼ばれたオーナーは、あたしを見たまま固まっていた。
いや。正確には両手の指だけは、ワナワナと震えていた。
「ひ? 」
「……ぅひ」
「ぅひ? 」
次の瞬間、ジャッケルさんは一瞬であたしの目の前に移動していた。
「うひょぉぉぉおおお‼︎ かっわいい犬っころが増えてるぅぅぅぅ‼︎ 」
「な、なんですか‼︎ 気持ち悪いですっ‼︎ 」
あたしの蹴りが、彼の首を綺麗に仕留めた。
ゴキっと嫌な音がして、小太りな体が宙に舞う。そして置いてあった棚に激突し、置いてあった宝飾品やら食器やらが彼の頭上に降り注ぐ。
「あわわ、ごめんなさいっ‼︎ あ、あたしまたやっちゃった……」
「平気平気。あの程度じゃ擦り傷にもならないから」
心配するあたしを他所に、先生は平然としていた。
「そうだよぉー‼︎ ワシは可愛い犬っころが相手なら不死身なんだよー‼︎ 」
その言葉に答えるかのように、ジャッケルさんは落下物の山から姿を現した。身体中のどこにも傷一つ見当たらない。それどころか、あたしが蹴り飛ばしたことで余計元気になったようにも見える。はっきり言って怖い。
「ねぇねぇラピスちゃん。この子どこの子? よかったらワシの店で働かない? いやいやそうだ。ワシの側に置いて、前のラピスちゃんと同じ格好で……」
「……おいジャッケル」
「うひ? 」
「お前は私一筋じゃなかったのかぁ⁉︎ あぁっ⁉︎ 」
先生は怒鳴り声と共に、ジャッケルさんの首を締めて片手で持ち上げた。
変身していないとは言え、狼人間の握力で首を絞められても平気とは……あたしも大概だけど、彼も人間離れしているのは間違いない。
「だだだだって‼︎ 可愛いわんこがいるんだから仕方ないじゃん‼︎ 」
「アンジュに手を出してみろ。本気で貴様の内臓を食ってやるからな」
「え、もしかしてそれって嫉妬⁉︎ やだぁ自分より若い子に嫉妬するラピスちゃん可愛いぃぃぃ痛いって痛いって‼︎ ごめんなさいワシが悪かった‼︎ 」
……この二人がどういう関係なのか。
ライカならきっと知っているんだろうけど、あたしは知らなくていいや。
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