【 】そして朝が来る

1/2
13人が本棚に入れています
本棚に追加
/76ページ

【 】そして朝が来る

 ラピスがラシェラの山を訪れた時、そこは以前と変わっていなかった。  正確には少しだけ違った。山奥の小さな洞穴に、一匹の獣の骨が転がっていた。骨には肉片の一つも付いておらず、丁寧に並べられていた。それは何者かが死体を綺麗に処理した痕跡であったが、変化という程の変化ではなかった。 「やぁ皆。もう二度と会わないつもりだったが、少々状況が変わってね」  ラピスは緑の中に声を掛けた。  真夜中。月は天高く登り、煌々と青白い光を振りまいている。   「今までのことを話にきた……会ってくれるかい」  がさりと音がして、草の中から幾つかの影が現れた。  狼の群れだ。彼らは暫く警戒するようにラピスを眺めていたが、やがて群れの中から最も大きな個体が他の者を押し除け、前に出た。 「どうも父君。相変わらず厳しいお顔で」  父君と呼ばれた狼は低く唸り、鼻を鳴らしてラピスの匂いを嗅いだ。 「娘の姿くらい覚えてくれませんかね? いや、そりゃあ勝手に変わったこっちが悪いんですが……少し前に会ったんですし、言葉が通じなくても、ね? 」  父君は一括するように吠えた。 「……ごめんなさい」  父君は相手がラピスであることを確認すると、群れの皆を見渡した。  張り詰めていた空気が一気に溶けた。数匹の小柄な狼が、てとてととラピスに擦り寄ってくる。中には足を甘噛みしたり、舐め回す者もいた。 「おぉ弟に妹よ。少し大きくなったな? よしよしそう焦るな。お姉ちゃんが今から、とっても愉快……ではないけど、面白いお話をしてあげるからな」  言葉が通じずとも、彼らはラピスの言わんとしていることを察したようだ。  続いてラピスの前に、父君程ではないが大柄な狼が出てきた。穏やかで落ち着いた佇まい。優しげな眼差しでラピスを見つめ、座ったラピスの顔を舐める。 「ご機嫌よう母君。色々とありましたが、私はなんとか生きています」  母君と呼ばれた狼は、小さく頷いた。
/76ページ

最初のコメントを投稿しよう!