13人が本棚に入れています
本棚に追加
/76ページ
「ちょっと先生。明らかに悪い顔しているんですが」
再びジャッケルさんを追い出した先生は、楽しそうに僕を立たせた。
先生に理由を聞いても笑うだけ。詳細を教えるつもりはないらしい。
「まぁそこに立っていてくれ。試しにやってみるだけだから」
そう言うと、先生は「月の光」を取り出して飲み込んだ。
たちまちのうちに狼人間へと変貌する先生。黒い髪が優雅に棚引き、瞳も美しい金色に輝く。普段は凛々しくも美しいその姿だが、にこやかな笑みを浮かべたまま近づいて来られると中々に怖い。
「だから何をするんですうぉぉっ」
無駄だと分かっていても質問をする。その直前、僕の腹は殴られた。
こちらも変身しているとは言え、狼人間の力で殴られたら流石に痛い。しかも悪ふざけや遊びの類ではなく、割と本気の力で。
「なんだこの程度で。肉塊に噛まれていた時の方がタフだったんじゃないか? 」
「あの再生能力お化けと比べないでくださいよってうぎゃっ」
また殴られた。今度は吐きそうになった。
それから僕は、何も分からぬまま腹を殴られ続けた。
「よしっ。これくらいでいいかな」
許された時、僕は地面に蹲っていた。
「さあアンジュ。出ておいで」
「先生……アンジュも殴るつもりですか……? 」
「何言ってんだ。可愛い女の子を殴る訳ないだろ」
「ペタルデスは殴ってたくせに……」
「あれはほら。一応敵だし」
よく分からないが、取り敢えずアンジュに変わってみよう。
正直言って、このまま殴られ続けるのはたまったものじゃーーーー
ーーーー再びあたしの出番。
「どうだアンジュ。腹は痛むかい? 」
「……あれ、全然平気です」
可哀想なくらいライカは殴られていたのに、あたしの体は痛み一つなかった。
「君達は入れ替われば、少なくとも痛みは無くすことが出来るみたいだね。肉塊の時はお母様と君でダメージを分散させていたが……それが現れたのかな? 」
それを確かめるためだけにライカをぶん殴ったなら、先生も中々の悪だ。
「さぁライカ君に戻ってくれ。今度は傷を負わせたらどうなるか……」
「先生、流石にそれは鬼ですよ……」
「冗談だって。さ。今度こそ帰ろうか」
「おうお二人さん。ちょっと待って貰おうか」
唐突に呼び止められた私達。
声の方に振り向くと、そこにいたのはハンス警部だった。
最初のコメントを投稿しよう!