【1】虹色と犬

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「ちょっと先生。明らかに悪い顔しているんですが」  再びジャッケルさんを追い出した先生は、楽しそうに僕を立たせた。  先生に理由を聞いても笑うだけ。詳細を教えるつもりはないらしい。 「まぁそこに立っていてくれ。試しにやってみるだけだから」  そう言うと、先生は「月の光」を取り出して飲み込んだ。  たちまちのうちに狼人間(ルー・ガルー)へと変貌する先生。黒い髪が優雅に棚引き、瞳も美しい金色に輝く。普段は凛々しくも美しいその姿だが、にこやかな笑みを浮かべたまま近づいて来られると中々に怖い。 「だから何をするんですうぉぉっ」  無駄だと分かっていても質問をする。その直前、僕の腹は殴られた。  こちらも変身しているとは言え、狼人間(ルー・ガルー)の力で殴られたら流石に痛い。しかも悪ふざけや遊びの類ではなく、割と本気の力で。 「なんだこの程度で。肉塊に噛まれていた時の方がタフだったんじゃないか? 」 「あの再生能力お化けと比べないでくださいよってうぎゃっ」  また殴られた。今度は吐きそうになった。  それから僕は、何も分からぬまま腹を殴られ続けた。 「よしっ。これくらいでいいかな」  許された時、僕は地面に蹲っていた。   「さあアンジュ。出ておいで」 「先生……アンジュも殴るつもりですか……? 」 「何言ってんだ。可愛い女の子を殴る訳ないだろ」 「ペタルデスは殴ってたくせに……」 「あれはほら。一応敵だし」  よく分からないが、取り敢えずアンジュに変わってみよう。  正直言って、このまま殴られ続けるのはたまったものじゃーーーー  ーーーー再びあたしの出番。   「どうだアンジュ。腹は痛むかい? 」 「……あれ、全然平気です」  可哀想なくらいライカは殴られていたのに、あたしの体は痛み一つなかった。   「君達は入れ替われば、少なくとも痛みは無くすことが出来るみたいだね。肉塊の時はお母様と君でダメージを分散させていたが……それが現れたのかな? 」  それを確かめるためだけにライカをぶん殴ったなら、先生も中々の(ワル)だ。 「さぁライカ君に戻ってくれ。今度は傷を負わせたらどうなるか……」 「先生、流石にそれは鬼ですよ……」 「冗談だって。さ。今度こそ帰ろうか」 「おうお二人さん。ちょっと待って貰おうか」  唐突に呼び止められた私達。  声の方に振り向くと、そこにいたのはハンス警部だった。
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