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警部と会うのは久し振りだ。
肉塊との戦いの時に行方不明になったから心配していたが、元気そうでよかった……ただ一つ気になったのは、隣に「彼」がいないこと。
「あぁそうなんだよ。今日はその事で話に来てな」
「もう‼︎ 警察が来るなんて聞いてないんだけど‼︎ 」
ジャッケルさんがぼやいていたが、僕達は全員無視した。
「この前の騒動から、ヴァルツ号の奴がいなくなっちまったんだ。あん時は大量の警察犬が死んだから、まぁ駄目かなって思ったんだが……あいつの死体だけ、どうしても見つからなくてな」
ヴァルツ号。いつもハンス警部と一緒にいた警察犬。
彼には特別な力がある訳ではないが、度々僕達に協力してくれた仲間だ。いなくなってしまったというのなら、その捜索には協力したい。
「うーん、あまり気乗りしないなぁ」
ところが先生は、あまり積極的ではなかった。
「警察犬ほど訓練された犬なら、はぐれても自力で帰ってくるんじゃないか? それが無いってことは、死んだと考えるのが妥当だと思うけどね」
「先生、それは……」
「別に生きてるなんて考えちゃいねぇよ」
警部はいつも通り、ぶっきらぼうに呟いた。
「死体ならそれでいい。あいつをちゃんと弔ってやりたいだけだ」
「……それもそうだね」
先生が納得した理由は、僕にはなんとなく理解できた。
「ヴァルツ号の持ち物はあるかい? 匂いがあれば辿れるよ」
「あぁ、それなら……」
警部は一枚の皿を出した。
「給水用に使っていた物だ。これでいいか? 」
「よしよしライカ君。早速やってみようじゃないか」
そう言うと、先生は僕に皿を手渡した。
「……え」
「君も狼人間になったなら、それなりに嗅覚が発達している筈だ。匂いを辿って探すくらい出来ないと、狼として恥ずかしいぞ」
いきなり無茶なことを言い出す。
「……アンジュ、やる? 」
ーーあんたがやりなさいよ。嫌なこと押し付けないでーー
「おうライカ。幼馴染の女と一体化とか、羨ましいことしてんなぁ」
狼人間として復活して、アンジュと一体化した僕を見ても、警部は全く驚かなかった。「どこにでも雪を降らせる」だの「体を結晶化させる」だの、「強制的に月を呼び出す」だの。そんな怪物を目の当たりにしたら、もう僕程度は不思議でもなんでもないのかもしれない。
「さぁライカ君嗅げ。そして地面を這いつくばって匂いを辿るんだ」
先生はにこにこしながら、僕の顔に皿を押し付けた。
ひょっとして。いやほぼ確実に。先生は肉塊化した僕に苦しめられたことを、今でも根に持っているのかもしれない……悪いのは僕だから仕方ないが。
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