【1】虹色と犬

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 警部と会うのは久し振りだ。  肉塊との戦いの時に行方不明になったから心配していたが、元気そうでよかった……ただ一つ気になったのは、隣に「彼」がいないこと。 「あぁそうなんだよ。今日はその事で話に来てな」 「もう‼︎ 警察が来るなんて聞いてないんだけど‼︎ 」  ジャッケルさんがぼやいていたが、僕達は全員無視した。 「この前の騒動から、ヴァルツ号の奴がいなくなっちまったんだ。あん時は大量の警察犬が死んだから、まぁ駄目かなって思ったんだが……あいつの死体だけ、どうしても見つからなくてな」  ヴァルツ号。いつもハンス警部と一緒にいた警察犬。  彼には特別な力がある訳ではないが、度々僕達に協力してくれた仲間だ。いなくなってしまったというのなら、その捜索には協力したい。 「うーん、あまり気乗りしないなぁ」  ところが先生は、あまり積極的ではなかった。 「警察犬ほど訓練された犬なら、はぐれても自力で帰ってくるんじゃないか? それが無いってことは、死んだと考えるのが妥当だと思うけどね」 「先生、それは……」 「別に生きてるなんて考えちゃいねぇよ」  警部はいつも通り、ぶっきらぼうに呟いた。 「死体ならそれでいい。あいつをちゃんと弔ってやりたいだけだ」 「……それもそうだね」  先生が納得した理由は、僕にはなんとなく理解できた。 「ヴァルツ号の持ち物はあるかい? 匂いがあれば辿れるよ」 「あぁ、それなら……」  警部は一枚の皿を出した。 「給水用に使っていた物だ。これでいいか? 」 「よしよしライカ君。早速やってみようじゃないか」  そう言うと、先生は僕に皿を手渡した。 「……え」 「君も狼人間(ルー・ガルー)になったなら、それなりに嗅覚が発達している筈だ。匂いを辿って探すくらい出来ないと、狼として恥ずかしいぞ」  いきなり無茶なことを言い出す。 「……アンジュ、やる? 」 ーーあんたがやりなさいよ。嫌なこと押し付けないでーー 「おうライカ。幼馴染の女と一体化とか、羨ましいことしてんなぁ」  狼人間(ルー・ガルー)として復活して、アンジュと一体化した僕を見ても、警部は全く驚かなかった。「どこにでも雪を降らせる」だの「体を結晶化させる」だの、「強制的に月を呼び出す」だの。そんな怪物を目の当たりにしたら、もう僕程度は不思議でもなんでもないのかもしれない。 「さぁライカ君嗅げ。そして地面を這いつくばって匂いを辿るんだ」  先生はにこにこしながら、僕の顔に皿を押し付けた。  ひょっとして。いやほぼ確実に。先生は肉塊化した僕に苦しめられたことを、今でも根に持っているのかもしれない……悪いのは僕だから仕方ないが。
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