五年目の4月1日

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五年目の4月1日

 …201✕ 年4月1日。 「□□小学校から、異動してきました。紫原泉です。学校によって違うことが多々あると思いますので、色々と教えてください。よろしくお願いいたします」  泉はとある小学校の職員室で着任の挨拶をしていた。  泉は前任校で四年勤めて同期の紫原直樹とこの春結婚して学校を異動した。  泉が勤務する市の新卒採用者は同一校に六年勤務しないといけないが、同じ職場で結婚した場合はどちらかが異動しないといけない。  泉と直樹はよく話し合って泉の方が異動することに決めた。  やはり五年目の教師としての仕事内容を考えると、泉が異動した方が都合が良いことが多いからだった。  泉は直樹と付き合って一年経った昨年の10月に彼にプロポーズされて、彼と結婚することを決めた。  そこからは準備の為に怒涛のように月日が流れていった。  結婚式は奇跡的に式場にキャンセルが出て 春休みに挙げることができた。入籍も式の当日の朝に済ませることができた。  新居に引っ越しや異動のドタバタで新婚旅行はさすがに春休みには行けず、夏休みに見送ることにした。  新居は直樹が泉の異動した先の学校の近くにしようと言ってくれた。だから異動先の学校は自転車で通う距離にあった。  しかし、直樹が勤務する学校は遠くなってしまい車で通勤してもらうことになってしまった。  泉と直樹が以前いた学校は、中規模校で大体3クラス程度の規模だったが、異動先の学校はオール2クラスでそこまで大きい学校ではなかった。  職員室はやはり以前の学校より狭く、また職員の数も25人ぐらいだ。だが逆に皆の視線を強く感じた。  4月1日で異動してきたのは泉の他に二人で、他に校長先生と新卒の教師が新しく赴任する。その場合辞令交付式を別会場で受けてから、ここにくるので学年発表もお昼前だと言われた。  泉は案内された席に座ってとりあえず手持ちの荷物は片付けたが、机の中に入れる物を車から持ってこようと思った。  泉はペーパードライバーだったが、結婚を機に運転ができた方がいいと考え、父親に練習に付き合ってもらって実家の車で運転の練習をした。  父親は練習の後毎回顔色が悪かった。  異動で荷物を移さなくてはならないので、今日は申し訳ないが直樹には電車で行ってもらい、彼の車を運転してきた。  昨日は運良く日曜日だったので練習のつもりで直樹に隣に乗ってもらいこの学校まで運転してみたが、彼も顔が真っ青だった。  擦ってもいいけどぶつけるのは勘弁だと直樹に言われて泉は何とか無傷で運転して学校に来ることができた。近いので車だと10分ぐらいだ。  泉は車から段ボールの一つを持って、校舎の中に入った。 段ボールが重くてヨロヨロしながら歩いていると、 「持とうか」と声を掛けられた。  声を掛けられた方を見ると、泉と同世代っぽい男性の先生だった。
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