五年目の4月1日

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 この先生どこかで会ったことあるような…  実は先程挨拶してる時も彼から強い視線を感じていた。  背が高くスラッとして眼鏡をかけていた。顔立ちは整っている方で優しそうな感じの先生だ。  彼は泉の段ボールをヒョイと持って歩き始めた。 「ご、ごめんなさい。自分で持てますよ」 「いや、これ荷物詰め込みすぎだろ。かなり重たいよ」  彼は苦笑いして言った。  泉は恥ずかしくて顔が赤くなってしまった。  職員室の前に着いた。  彼は段ボールを一旦下に置いた。 「ありがとうございます。ここからは自分でやります」  泉は笑顔で彼にお礼を言った。 「水瀬さんだろ」  彼は泉の旧姓を言った。 「え?どうして私の名字…」 「俺のこと忘れちゃった?まあ、五年ぶりだから仕方ないか」 「でも、私さっきからどこかで会った気が…」 「俺、倉本だよ。倉本涼真…覚えてない?」  あ! 「思い出した。倉本君、初任者研修以来だね」  泉は驚いて涼真を見た。  実は涼真は、新卒一年目で受ける初任者研修で会った先生ではなく、教員採用試験の二次試験の個別面接で会っていた。涼真は泉の次の順番だった。  自分の番が来るまで泉は非常に緊張していた。  思わず人の文字を手の平に三回書いて飲み込むことを何回かしてしまっていた。  すると、隣に座っていた涼真に話し掛けられた。 『さっきから見ててさ。余計なお世話かもしれないけど、それ『人』じゃなくて『入』だよ』  泉は手の平に書く漢字を間違えていた。 『え?あ、そ、そっか』  泉は真っ赤になって慌てて直して飲み込んだ。 『ありがとう』  泉は赤い顔のまま涼真にお礼を言った。 『俺もやっとこう』 涼真も人を手の平に書いて飲み込んでから、泉に微笑みながら言った。 『何か緊張が解けた。ありがとな』  泉は照れ笑いを浮かべるしかなかった。  面接が終わり、会場の外で帰る駅をスマホで確認していた時に涼真に話し掛けられた。 『まだいたんだ』 『あ、さっきの…。私方向音痴で。ちゃんと確認しないと間違えそうだから』  泉がそう言うと涼真は吹き出した。 『君っておっちょこちょいなんだね。それで面接どうだった?』 『うーん何とか。』 『俺も。でも君のお陰でそこまで緊張しないで話せたよ』 『それならいいんだけど…』 『合格してるといいな。駅どっちか確認できた?』  泉が行く方と涼真が行く駅は反対方向だった。 『そっか…俺倉本涼真。君の名前は?』 『私、水瀬泉』 『水瀬さんか。水瀬さん、良かったら連絡先交換しない?合格してたら同期になるし』 『でも、私合格してる自信ないし、わざわざ連絡して合格してるか聞くのも…』 『いや、別に合格を確かめるためだけじゃなくてこれも何かの縁だから連絡先ぐらい交換してもいいかなって。それに俺もう少し君と話し…』 『合格してたらまた会えるよね。その時に連絡先交換しようよ。じゃあね』 『え、ち、ちょっと…』  泉は涼真に手を振って駅の方へ歩き出してしまった。  涼真にはみっともないところばかり見られていたので、正直に言ってこの場を早く立ち去りたかったのだ。  そして案の定帰る駅を間違えていた。実は涼真と同じ方向だった。  だから初任者研修でバッタリ会って驚いた。 でもその時もバタバタしていて連絡先を交換するまでには至らなかったのだ。 「水瀬さん…紫原に姓が変わったのって、あの紫原と結婚したの?」  え?倉本君、直樹くんのこと知ってるの?
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