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海外旅行先のガイドに言われたことがある。地元の人が通っていない道は入ってはいけない。
本当にそういう道があるのだ。
人で賑わっている通りのすぐそばに。
なぜダメかというと、だいたい犯罪に巻き込まれるからだ。そのまま行方不明なんてこともある。
おそらく、この道はそういう道で、よう姉ちゃんと声をかけてくる男は善人ではないだろう。
知り合いによる面倒と赤の他人よるトラブル。どっちがマシかといえば、どっちも嫌だった。
今回は護衛してくれる人がいるので、後者がマシだと思われる。
ナビゲーターからも町を壊さないように闇魔法の睡眠と闇の枷を教えてもらい発動させた。
足枷と手枷をされ、手枷と足枷が背中側で連結される。海老反りしたまま眠る変なオブジェが8コもできてしまった。
正当防衛になるよね。
『なるよ。向こうがナイフで脅してきたから大丈夫』
どうしよう。気のせいでなければフライトが枷を熱心に見ている。
「賢者さま」
なんか熱ぽい言葉はかれたけど、怖いわ。ゾワッてした。
「何か新しい世界が開けそうです」
閉めて。
それ、開いたらダメなヤツ。
「衛兵呼んできてくださるかしら?」
フライトをこの場から引き離したかったのに、その辺にいる人を捕まえて金を渡し、呼びに行かせた。
待っている間に2度襲われ、オブジェが30を超える。拘束、手枷と足枷だけでいいのになぜ連結するんだろう。
上手く調節出来なくて悲しくなった。
「衛兵に渡してもすぐ出てくるよ。出てきたら、きっとあなたのこと恨むよ」
「なら、きつめに眠らせておこうかしら。そしたら起きた時にはわたしは町の外ね」
賄賂が横行している町なのか。
どこからともなく現れた青年が微笑む。
「殺さないの?」
「それは難しいわね」
あえて人を殺したいとは思わない。ダンジョンはゲームのようで、生き死にを意識しないで済んだが、生身の人間は好ましくなかった。
「人を殺すのが怖い?」
それもあるが、なんとなく、他に選択肢がなければ出来そうな気もする。
「町を破壊しないで殺すのは難しいわ」
『魅了スキル使われてます。発言の真偽判定もスキルでおこなわれています』
目は冷ややかなものになったが、珠莉は口元に微笑を浮かべる。
なんか、フライトが興奮しているがそっちはスルーだ。
「お姉さん、僕のこと自由にしてくれない?」
青年はシャツの胸もを少し開き、小さな魔法陣を見せる。
『奴隷印です。スキルで解放できるよ』
「その場合の利益は?」
「あー、やっぱり魅了効いてないや」
「魅了という攻撃を仕掛けてきた人を助ける価値がある?」
困り顔をつくり、青年は語り出す。
「僕、幼い頃に組織に誘拐されて」
「そういう不幸話はどうでもいいわ」
真偽なんてわからないし、同じ状況においても受け取る人によってその不幸度合いは変わってくる。そんな、感情的な事はどうだってよかった。
今必要なのは即物的な話である。
そして、時間制限は衛兵が到着するまでだ。
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