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 アラサーに異世界転移はキツイわ。  戸籍も信用も人との繋がりもないから、登録できるのは冒険者ギルド一択。就職してから全力疾走なんてやったことないのに、今更な野外で肉体労働なんてやれるのだろうか。 『大丈夫、あなたはやればできる子』  2頭身の天使ぽい、この世界のナビゲーターが励ましてくれるが、やれる子といわれる歳ではない。  ゆるキャラみたいでかわいいが、人形みたいな表情なので、語る言葉は心に響かない。  転移者1人付き1体のナビゲーターがついているが、この世界の人には見えていないそうだ。ナビゲーターの有無が転移者に同類の存在を知らせてくれる。  おかげですくなくとも、自分以外に11人の転移者がいるのはわかっていた。  女1、男3の逆ハー中学生グループ。  男1、女3のハーレム高校生グループ。  男1、女2の社会人職場グループ。  転移した時点でそれだけの人が同じ場所におり、和久珠莉(わくしゅり)は社会人職場グループの1人である。  だいたいみんなグループ行動をしているのだが、珠莉は単独行動を選んだ。ナビゲーターがいるとはいえ、1人の心細さはある。あるが、あのダブル不倫あげく社内だけでも三角関係を築いている3人組に混じっていたくなかった。  転移した世界が剣と魔法ではなく、ミステリー世界なら絶対殺人事件が起きているヤバさだ。内部告発しようとは思わなかったから、証拠集めはしてないが、妻子とは別に職場の女2人に手を出した上司は横領の疑いがある。  だって、上司とはいえ女3人囲えるほどの給料はない。  そんな中に混じってもいいように扱われるだけで、精神か胃がやられる。どう考えても単独行動のほうが健全な精神でいられるように思えてならない。  転移場所から最も近い町までは全員で移動したが、冒険者ギルドに登録後、パーティーを組む段階になって珠莉は1人で町を出てきた。  登録したばかりのGランクにできるのは常設依頼だけ。それで、日が沈むまでの数時間で食事代と宿代を稼がなくてはいけない。  まあ、無理だ。  そこで、頼りになると信じたいのが転移者特典のユニークスキル〈ホーム〉。異空間作成スキルで、レベル1の現状で形成されるのはワンルーム。カスタマイズはできないが、風呂トイレ付きだ。  なので、宿はスキルでどうにかなるはずだから、食事代を稼ぎたい。できれば今後の活動資金も欲しい。  欲張った所ですぐにはどうにもならないから、まずは確実に食事代を稼ぐ事にする。  ナビゲーターの指示に従い、食べられる物を採取していく。道具はナビゲーターが出してくれた。  このナビゲーター、スキルにアイテムボックスがあり、初期装備を持っている。この初期装備、ナビゲーターによって内容が違うそうだ。  なんと、この世界の現金も持っている。 「それ、早く教えてよ。無理して街の外に出なくてよかったじゃない」 『ホームのスキルは町の中で使うと不法占拠になるの。場所によってはお尋ね者になります』 「ホーム、町の外で襲われたりしない?」 『大丈夫。結界付きです。この辺りにそれを壊せる生き物はいないよ』  どうやら今日は食べられる物や売れる物を採取して、〈ホーム〉で泊まり、明日、町に戻る事になりそうだ。
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