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明日、賢者が踊る野菜ダンジョンから離れる。この地の冒険者ギルドには最後となる報告をフライトはした。
「賢者が同郷の人を避けたいようなら、王都を避けるように誘導してくれ」
「やはり全員首都送りですか?」
「こちらの世界では成人していてもいい年代でも、働いたことのない子どもに自活させるのは難しい。学校に入れて、こちらの世界について学んでもらいながらそのあたりも教育する予定だ」
この世界に馴染む事なく、逆ハーやハーレムにこだわるようなら、その欲望を満たすための箱庭をそれぞれに用意する。
国よっては余っている王族もおり、小国なら国益の為に王子や姫を箱庭の住人として差しだす。
聖女や勇者という職業がもつ力は大きく、この世界を害されないためなら、その程度の箱庭をくれてやる。箱庭の中で、夢を見ていればいい。
この世界の住人として適応するなら、それはそれで歓迎しよう。箱庭にかけるコストが削減できて、良いことだ。
扱いが難しいのは働くことをしている元の世界でも大人だった者たち。冒険者ギルド職員希望した3人も聖女や勇者一行のあと、首都に送られる予定だ。
田舎の冒険者ギルドに新人を3人も抱え続ける事はできない。監視するにしても王都のほうが人材が豊富だ。
そして1人、冒険者活動をしながら旅に出た賢者。あの夜、かの賢者が望んだのは社会情勢や食材の得られるダンジョンや食文化についてだった。
意識が食に向いている間は世界にとって、無害でいられるだろう。どうか、そのままでいて欲しいと願う。
「よりにもよって、僻地のダンジョンを教えないで欲しかったんだが」
「この辺りで海産物が得られるダンジョンはあそこだけだ。定期的に冒険者を送ってモンスターを間引いてもらわないとスタンピードが怖い」
近くに町はなく、冒険者ギルドもない。そんな僻地の山奥にあるダンジョンだが、岩塩が得られるせいか海産物をドロップする。
冒険者が依頼を受けていくようなダンジョンをサブギルドマスターは賢者に教えていた。
「ダンジョンでモンスター討伐をした後、どこかの冒険者ギルドへ寄ってくれれば依頼達成になるように手配はしています。異世界人の賢者なんて怖くて搾取なんてできませんよ」
サブギルドマスターは懸念を1つこぼす。
「ダンジョンで魔石は、ドロップしていますよね? 賢者は1度も売ってくれていないんですが、何に使われているかご存知ですか?」
「わからん。スキルのテントに籠られたら何をしているか知りようがない」
剣の鞘と柄に見える杖なんて物を作っていたので、何かしら作っている可能性は高い。
「魔道具の魔力供給用に集めている可能性もある。いくつか、魔道具もドロップしていたはずだ」
「そういう平和的な利用ならいいのですが」
悪い方に考えて対策をとっておくのもサブギルドマスターの仕事だった。ほとんどは取り越し苦労で終わる。
しかし、仕事柄、準備不足で対応できませんなんて事態は許されない。
「今後ともよろしくお願いします」
サブギルドマスターに頭を下げられてフライトは冒険者ギルドを後にした。
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