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 冒険者ギルドの食堂はカウンターで注文し、お金と引き換えに商品をもらい、自分で空いている席まで運ぶようになっていた。  何の注文もしていない人は座ったらダメらしい。  そこそこ人のいるあたりの机を選び、珠莉は壁側へ追いやられた。側にいる冒険者にネイトはにこにこ話しかける。  顔のいい男が容赦なくたらしこんでいた。  鼻の下を伸ばした顔の見本市みたいになっている。  そんな才が珠莉にもあったなら、おひとりさまになっていなかっただろうか。  彼氏作るより、ペット飼う方が現実的な寂しさを埋める方法だと元の世界にいた頃は思っていた。  今はあんまり寂しくない。元の世界の会えない人を思えば、感じるけれど、フライトとネイトがいるおかげだと自覚する。犬と猫みたいな2人だ。  自立生活しているから飼わなくてもいい。  元の世界でもペットが欲しかったけど、面倒みられる気がしなかったから、ネコカフェで我慢してた。  薄くて雑味が多くて安いのが最大の利点なエールをちびちび飲む。2杯はいらないので、なるべくゆっくり飲んでいた。 「おいおい、ここは嬢ちゃんらがくる所じゃねーぞ」  赤ら顔の男が3人ネイトに絡んできた。女にも見える美人だが、それ男と思いながら推移を見守る。  これは、アレだ。  冒険者ギルドのテンプレ。珠莉はリアル体感型劇場を見ている気分になっていた。だってアラサーだもん。嬢ちゃんなんて分類には含まれない。 「なぁに? お兄さんたち、僕にお酌してほしいの? ボクゥ、高いよ」 「チッ、男かよ」 「ごめんねぇ」  慌てず騒がずネイトは笑って流す。気まぐれな猫みたいで、場慣れしていた。 「おっ、隣は女じゃねぇか」  男が肩に手を置こうとすると弾かれた。ダンジョン通いて瞬時に張り慣れた無属性の防壁魔法が男の手を阻んだ。  目を座らせ、顔の下半分で笑い珠莉は振り向く。驚いた顔をした男らに闇魔法の拘束を使う。 「どうせ振り向いたら若くないて思っているんでしょ。嬢ちゃんなんて年じゃないし、ねぇ?」 「えっ、お姉さん酒弱い? 酔ってる」 「酔ってません。フン、年増なだけよ」  拘束されてゴロゴロしている男たちを座ったまま足先でつっつく。 「人はいつまでも若くいられないのよ。わかる? わからないわよね。男なんてどうせ、若い女にしか興味ないんだし」  ゲシッと蹴飛ばして男を順に転がす。 「みんな、年増だって思ってるんだ」 「お姉さん、落ち着いて。誰もそんなこと言ってないから」 「あ゛⁉︎ 年増としゃべる口はないって言うの」  静まりかえった食堂で、珠莉はゆらりと立ち上がる。蹴飛ばして座ったらままでは足が届かなくなった男たちの元へ向かい、踏みつける。 「ねぇ? 何か言ったらどう?」  ドカドカと順に踏みつけていたら、フライトがやってきた。 「これはどういううらやま、…状況だ?」 「お姉さん、お酒激弱で酒乱」  ネイトは端的な情報を与えた。フライトは背後からそっと珠莉を抱きとめ、持ち上げる。踏みつけることも蹴ることもできなくなった。 「どうせあんたも若い子がいいんでしょ」 「俺はシュリ。君がいい」  耳元でささやかれ、大人しくなるとフライトは解放してくれる。珠莉はネイトの隣に戻ったが、エールはネイトに奪われて飲めなかった。
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