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 眠たそうにしている珠莉を連れて、フライトとネイトは宿屋に向かう。冒険者カードは2人分フライトが受け取ってきていた。  買取の精算は数が多かったのでまだ終わっていない。明日、目が覚めたら本人に受け取りに行ってもらう。  Aランクの冒険者が使うのにふさわしい高級な宿で部屋をとり、珠莉を寝かせる。寝室は2つある部屋を選んだので、片方は珠莉専用にした。 「エール数口であんな酔い方するとは思わなかった」 「オレ、ギルドで依頼を頼まれているが、明日から2人で大丈夫か?」 「ダンジョンへ行っていれば平気だと思うよ。もうお酒は飲まさないし」  義務感いっぱいにネイトは決意する。 「怒ったシュリは綺麗だったな」  うっとりとつぶやき、フライトはアイテムバックから取り出した酒瓶をラッパ飲みする。 「うん。アレは野放しにしない方がいいから、お兄さん頑張って」  Aランクの冒険者なら、とっても恵まれた身体をしているし、少しくらい蹴られても大丈夫だ。暴れたら捕獲もできるみたいだし、ネイトはフライトを応援する。  仮の主人とはいえ、印があるのだ。フライトは命令しようと思えばどんな理不尽ことでもネイトに実行させられる。けれど、ネイトが命令されているのは精神的にも肉体的にもシュリを損なうなという1つだけだ。  時間が有れば剣の稽古もしてくれるし、暇潰しに冒険譚も語ってくれる。奴隷の主というより、駆け出しの冒険者の面倒を見ている先輩冒険者だ。  組織にいた頃、その姿に価値を見出されるまで食事にもこと欠く扱いで、姿に価値を見出されてからは玩具扱い。似たような扱いを受けている時に死んでいった同類は覚えていられないほどたくさんいる。  たぶん、あと2年も組織にいたら使い潰されて死んでいただろう。生き残るために少しでも技能を手に入れて足掻いてきたが、見た目が劣化したら終わりだと理解していた。  彼らと一緒にいるとダンジョン強制修行は大変ではあるが、あれで死なないように配慮はしてくれている。たぶん、奴隷解放後も困らないように育てくれていた。  一緒にいれば自然と明日を信じられる2人をネイトは気に入っている。かなり好意も持っており上手くいくならいってほしいが、どっちも恋愛は苦手そうだ。  シュリは完全に拗らせているし、フライトは本命童貞を疑っている。  女性に月のものをあるのは知っていても正しくわかっていなかったみたいで、そういう周期があるとわかるほど長く付き合った彼女はいなさそう。  にっこり笑えば顔の良さと魅了のスキルのせいで、男女関係なく惚れられてきたネイトは恋愛対象外扱いしてく2人のそばが居心地よかった。  すぐにどうこうなるとは思えないし、しばらくは静観しよう。その間はそばにいさせてもらうことにした。
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