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 翌朝、筋肉痛がきた。 『筋肉痛はスキルで回復させない方がいいの』  そんな正論聞きたくないわ。  この世界の新米冒険者服に着替え、朝食にする。そんな物があるなら昨日、町に入る前に着替えたかった。  そしたら悪目立ちしなかったはず。けれど、わかりやすく異世界人の服をきていたから、すんなり冒険者ギルドで登録できたようにも思える。  この世界の人にとって、転移者は身近な人でなくても、そういう人がいると知られている存在だ。  世界のどこかに、ときどき現れる存在で珍しさはあっても、崇めたて祀られるほど希少でもない。  だからまあ、異世界人だからとこの世界に対して何かしなくてはならない使命なんてものはなかった。  ナビゲーターやスキルはこの世界の神様による慈悲で、帰還はできないと知らせるための存在でもある。  知らせておかないと、一生をありもしない帰還手段探しのため使う人が出てくるらしい。珠莉はそこまで元の世界に執着はなかった。  親の老後や仕事、プライベートで気になる事はある。元の世界にいればそれなりにやるべき事があり、日々を淡々と積み重ねていっただろう。  今日と同じ明日を繰り返しているかの様な閉塞感に気づかないフリをして、日々を消費していたはずだ。  まあ、一寸先は闇だったわけで、今を生きるために足掻かなくてはいけなくなった。ナビゲーターが出してきた硬くて美味しくないパンと昨日採取した草で煮出した香草茶の朝食。満足感なんてない。  ナビゲーターは食べ物もたくさん持っているらしいが、贅沢はなれる。なれたら、水準は下げられない。  そらなら、今の収入に応じた物でなくては、後々泣きをみる。  食事事情を改善させないと、生きて行くのが辛い。とりあえず、町に戻りお金を手に入れよう。  ゴツくて丈夫そうなブーツをはいて、〈ホーム〉を出るとスキルを解除する。  ユニークスキルがおひとりさま専用な感じだ。この世界、女は20歳過ぎればいきおくれみたいだし、アラサーではそういう期待もできそうにない。  しかし、1人で孤独に生きて行くのは寂しすぎる。真っ当なお友達くらいは欲しい。  職場の人たちの様なドロドロしていない人間関係がほしいと願う。  町から出て行く冒険者が多い中、中学生グループと高校生グループにそれぞれすれ違った。あちらはまだ着替えてないらしく、よく目立つ。  おかげで珠莉は遠くからでも気がついたが、あちらはわからなかったようだ。距離もあったし、近づいてナビゲーターが見えたところで、言葉を交わすような間柄でもない。  冒険者カードを提示し、関所を抜ける。昨日は異世界人として、冒険者ギルドで登録が済むまで監視付きで通されていた。  余所者が町に入るにはお金がかかるらしいが、異世界人にそれを要求すると犯罪者落ちする者が多い。  そして常識の違う悪事とこの世界に対する好意のなさで、ユニークスキルで虐殺なんて事もままあったそうだ。  珠莉のユニークスキルで虐殺はやれそうにはないが、同時期に転移して来た人の中には可能な人がいるのかもしれない。  
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