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 宿で昼食をとってからネイトと冒険者ギルドへ向かう。昼下がり、利用する冒険者は少なく閑散としていた。  珠莉の冒険者カードはDランクになっており、ネイトはFランクになっている。更新されたばかりの冒険者カードを提示すれば、お金を持って来てくれた。 「魔石と食材は売る予定はありませんか?」 「消費する物を売る予定はないです」 「ボクは他に売る物がなかったら売るよ。外国に行ったらお金より魔石の方が換金性もいいみたいだしね」  そうなんだと、聞いておく。 『国境近くなら手数料取られるだけですが、地域によっては使えません。魔石や宝石ならどこでも買取してくれます。だだ、商家だと騙される可能性もあるよ。おすすめは冒険者ギルド。大儲けもしないけど、大損もしないよ』  交渉に自信がないなら冒険者ギルドがいいようだ。今後とも仲良くさせてもらおう。  同僚たちが働く冒険者ギルドは避けるけど、支部1つ使えないくらのデメリットだ。旅している身ならさした問題にもならない。  定住先に選ばなけばいいだけだ。 「国外に出られる予定ですか?」 「醤油と味噌がドロップするダンジョンへ行きたいですから。オーク王国ダンジョンより乳製品の手に入りやすいダンジョンも興味がありますけど」 「情報開示できるか上の者に確認しておきます。後日お声掛け下さい」  カウンターを離れると、迷いながらネイトが問いかけてくる。 「お姉さん、何者? 聞いていいやつ?」 「知ってて声かけて来たんじゃないの?」 「強そうだから組織から出られるかもって期待したのと、話している間に奴隷印消せる人ってわかったからついてきた」  初対面でいろいろわかってそうな感じをだしていたから、もっといろいろ知っているのかと思っていた。 「フライトから何か聞いてる?」 「一緒にいたい女性ってくらいだよ」  思いのほか情報が流れていなかった。 「人の耳が気になるから、宿で話そう」 「なら、何かおやつ買って行こう。ボク、自分で稼いだの初めてなんだ」 「なら、ネイトの好きな物買いに行こう」  初めての給料で子どもの頃に欲しかった物を大人買いして失敗するのも経験だ。ホールケーキ1人で食べてお腹壊すとか、シールや玩具付きのお菓子箱買いして飽きるとか、ラーメンのトッピング全部のせして食べ切れなかったりとか、いろいろやらかすのも思い返せば楽しい。  食べ物系でやらかした人はみんな知っている。美味しく食べられるのは適量までだ。ちょっと足りないくらいが、また食べたくなる。  そういえば、初任給で自分のために使った人は失敗談を語る人が多いが、親や祖父母にプレゼントとした人は失敗話を聞かない。  すでに家族との縁がないネイトは自分のために使って、是非とも失敗して欲しいと思う。人生とは失敗の積み重ねだ。  昨日は失敗だった。記憶はあるけど、お酒飲んでいたから、珠莉は記憶はないことにする。  忘却こそ人類に与えられた恩寵。ならば、綺麗さっぱりと忘れたことにしてみせる。
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