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 宿の部屋に戻り、飲み物を注文する。飲み物が届いてから買い込んだパウンドケーキや串焼きを並べた。  ナビゲーターに預かってもらっていたせいか、串焼きはまだ湯気が出ている。食べながら、部屋の内部を隔離する結界を張った。  初めてだが、意外と簡単にできる。 「わたし、異世界人なのよ。異世界人で職業、賢者。冒険者ギルドからすると警戒対象みたいで、フライトをつけられているの」 「異世界人がいるって話はウワサできいていたけど、お姉さんがそうなんだ。賢者って思いのほか上級職だね。それなら、奴隷印は確実に消せるよ」  何でもないことのように答え、ネイトはパウンドケーキにフォークを刺す。 「異世界人って集団で来たんでしょ。他の人はどうしたの?」 「一緒にきたのはわたしを入れて12人。その内8人は名前も歳も知らない人で、顔見知りの3人は三角関係。ちなみに男1で、女2ね。混ざると、男の方にお前俺のこと好きなんだろって態度をとられるの」 「あっ、はい」 「わたし、職場の上司で、仕事できない人に好意は持てないの。なのに、オレは妻子がいるからって」  食べ終わった串焼きの串を片手で折る。 「わかる? 好意のない相手に、勝手に好意があるように思われて振られた感じになっているのよ」 「あっ、はい」 「そんな人と一緒にいたいと思う?」 「ないですね。ありえません」  理解してくれる人ができて珠莉が機嫌を良くすると、大仕事が終わった後のようにネイトが息を吐きだした。 「異世界にもパウンドケーキありますか?」 「あるよ。たぶん簡単なのなら作れる」  オーブンはないが、錬金鍋に入れればできるはず。〈ホーム〉はレベルが上がると、備品もよくなっているので、そのうち電子レンジがオーブンレンジになるかもしれない。  自分で焼くなら、そうなってからだろう。  卵と砂糖とミルクと小麦粉とバター。まずはお手軽にプレーンを焼こうとしたのに、出来上がったのはスポンジケーキだった。 「あっ、なんか違うのになった。ちょっと待ってて、飾りつけするから」  生クリームもドロップしていたからデコレーションして、甘い果物はないからコンポートにしてから飾ればいいかな。  錬金鍋でますばコンポート。お皿に移して、錬金鍋には生クリームと砂糖を入れて8部立てくらいにする。  風魔法でケーキを半分に切り、生クリームを塗ってコンポートにしたリンゴを挟む。  珠莉が飾りつけしている間、ネイトは大人しく待っていた。 「パウンドケーキじゃなくて、デコレーションケーキになったけど、完成。食べる?」 「食べたいです」  6分の1くらいにカットしてお皿に乗せてやる。切るのも移動も風魔法だ。魔法って便利と思いながら自分用に8分の1くらいに切り分ける。  なかなか良い出来だと、自画自賛しながら食べた。
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