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 宿に戻ると、珠莉は錬金術を使うつもりだった。けれど、それではネイトがヒマをしてしまう。 「ここって、部屋で料理していいと思う?」 「こっそりやって、きちんと片付けたらいいと思う」 『結界を張って、証拠隠滅です』  ナビゲーター、注意はしてくるけど、堅物ではないようだ。 「なら、クレープ作ろう。作り方教えるから、ネイトが作ってね」 「がんばります」  この素直さも処世術だろうか。嘘つかないからと、本音がグチばっかりの人よりはいいけど、かわいいと可哀想が混ざる。 『この世界、共通基準になる単位がないよ。スキル異世界翻訳言語でも対応できません』  いまから使う卵もダチョウの卵くらい大きいし、適当に混ぜて感触とか見た目で覚えてもらおう。  錬金鍋を出してもらい、割れたグラスをいっぱい入れてボールを作る。鶏卵4個くらいを使うならいいが、ダンジョン産のデカ卵はボールと同じくらい大きい。  大は小を兼ねるだ。  錆びたり穴の空いた金属類を錬金鍋にいれて、寸胴鍋をつくる。それにあわせたホイッパーや柄の長いお玉も作った。  小麦粉はふるった方がいいから、まずそれをやっていてもらおう。  10キロ袋かなと想像する小麦粉の入った袋を渡し、粉ふるい器を作る。ふるう先に大きな紙でも広げておきたいから、作業台もい必要だ。  ダンジョンで得た壊れた机は錬金鍋に入らないので錬成魔法陣を魔力で描き、錬成する。スキルって、初めて使っても大きな失敗はしないようだ。 「確かに、道具がいっぱいいるね」  次から次に作られる道具にネイトは驚いてる。まずは準備のできた小麦粉をふるってもらおう。  その間に他に必要な物を作って、終わったら作り置き用の鍋や瓶を作る。 「ねぇ、話しかけても大丈夫?」 「うん。いいよ」  まあ、同じ作業ばかりじゃ飽きるし、おしゃべりくらいしても、錬金術は使えた。 「クレープってどんなお菓子?」 「甘いお菓子にもなるし、ケーキにもなるし、ご飯にもなるかな。何と食べるかによって変わるから、元世界ではそれ専用の店があったよ」 「へー、楽しみだ」  ときどき、粉ふるい器の持ち方をネイトが変えるので、たぶん腕がだれてきている。それでもなげださないし、不満もこぼさなかった。 「じゃ、卵割って。殻は素材として回収します」  卵と寸胴鍋と、ナビゲーターに卵を割るのに必要だと言われて金槌みたいなのとアイスピックみたいな道具も渡す。  卵に穴を開けて、鍋に移す。黄身がつかえて苦労していたが、全部移し終わると砂糖の入った紙袋を渡す。 「とりあえず、お玉一杯入れてみて」  言いながらお玉を渡し、入れ終わるとホイッパーを渡した。 「混ぜて。ものすごく混ぜて。粉をふるうより大変なくらい混ぜて」  クレープってそこまて泡だてないといけなかったかどうか思い出せないけれど、混ざっていないよりはいいはず。  お菓子を作ろうとすると、電動泡立て器の偉大さがわかる。今回は卵が大きいので全体の量が増える分、より大変だろう。  バターはどのタイミングで入れるのだったかしら、もういれちゃおうかな。どうせ、分量も適当だし、入れちゃえ。 「次、バター入れます」  ソフトボールくらいの塊を投入した。 「どんどん混ぜて。もう嫌になるくらい混ぜて、混ぜて」 「お菓子作りって、体力勝負?」 「あー、そういうところあるかもね。趣味で作る女の子は多いけど、仕事にまでしているのは男が多かったかも」  料理の世界も男性社会だったし、女性の社会進出が進んだとはいえ、逆転させるほどではないはず。  ネイトはおしゃべりでちょっとだけさぼりながらも、しっかりと混ぜきった。
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