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『泡立て器なら魔道具でつくれるよ』
今回は素材が足りていなかった事にしよう。いっぱい鍋を作って、ダンジョンに行かないと素材がないことにする。
どうせナビゲーターの声は異世界人にしか聞こえない。
「では、最後に小麦粉をいれます。これはちょっとずつ入れて混ぜてね」
卵の量が多すぎて、適量がわからない。ガラスのボールに大きなお玉一杯分とりわけ、珠莉が小麦粉を入れる。思ったよりドサっとはいた。
硬くなりすぎたので、失敗例として見せてからミルクをたす。
お玉何度もすくい、とろとろしている状態を確かめる。
「こんな感じなるまで頑張って」
簡易コンロとフライパンをだして、お皿にバターを入れておく。
「このお菓子、オーブンじゃなくてフライパンで焼いたらできるから」
フライパンを熱し、バターを溶かし、コンロの熱を避けて、お玉で流しいれる。薄く伸ばして、ひっくり返すのに失敗した。
3回ほど試してダメだったので、錬金鍋を取らら出す。ボールの中身を錬金鍋に流しこむ。一瞬で20枚くらいできる。
大皿を用意し、広げておく。
「これが成功品よ」
ネイトの視線が冷たく感じたので、コンポートと生クリームをトッピングして別皿におく。カトラリーも用意してあげた。
捨てるのももったいないので、珠莉は自分で作った失敗作を食べる。味は適度なわりに問題なかった。見た目については評価しない。
「がんばればきっとできるわ」
さすがに寸胴鍋ぜんぶを焼かれても困るので、今日はお玉1杯分にしてもらう。残りはナビゲーターに預けておけば腐る心配もない。
「試行錯誤と練習は大事よ」
「うん、まあ、そうだね」
なぜだろう。ネイトに哀れまれている気がする。
「フライパンで作れるお菓子は少ないの。オーブンで焼く物の方が多いんだから」
『魔道具でオーブン作れるよ』
ナビゲーターが優しくない。
「お菓子作りは道具もいるから、それ用の素材も集めたいわね」
「うん。クレープ、美味しかったです。完成品もわかっているから、がんばって練習するよ」
なんだろう。いい子ちゃんすぎる発言をされるとつらい。
お菓子作りなんて、ネットか本見ながらしかやらないから、細かいところまで覚えきれていなかった。
自炊は社会人になってからの方がやっているけれど、お菓子だけに限るなら学生の頃の方が作っている。作った思い出が遠くて、ほろ苦い。
クリスマスやバレンタインの嫌な思い出まで刺激されてはしまい、封印する。
ごめん。オレ甘いもの苦手だから、とかいってないて、受け取るだけ受け取れよ。後から両片思いとかクラスメートに説明されてもつき合えるか。
ふられたとしか思わないわ。
この世界にはそんな悪習はない。とっても素晴らしいことだ。
『元の世界で男運がないから拗らせたのか』
思考を読むナビゲーターは、思い出してしまった過去を見てしまったようだ。
『きっといい事あるよ』
励ましが雑。
もう胸が痛むよな過去でもないけれど、つき合っていたら何か違っていたのかもしれないと夢想するとこはある。
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