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 波の音が聞こえる家。庭からは白い砂浜におりられる。15日契約で借りた住居だ。  欲しい食材は順調に集まり、3食米を食べられる状態になっている。フライトやネイトにそんな食生活を強要するつもりはないし、ときどき完全和食料理を錬金術で作りもしていた。  食に不安がなくなり、冒険者ギルドにも近寄っていない。ネイトが商業ギルドに登録して露店を始めたため、たまに手伝うだけの穏やか日々だ。  そろそろ定住場所を考えてもいいかもしれない。  まず気になるのは治安だ。それから、今は自分でダンジョンに取りに行けるがその内それもできなくなるだろう。老後のことを考えると物流のいい場所で、〈ホーム〉があるとはいえ、水の悪いところはムリな気がする。 『住みたいところに住んだらいいよ。錬金術で魔道具を作ればある程度住環境は整えられます』  あんまり田舎はよくない。村に1人しかいない、錬金術師とか薬師になったら仕事に忙殺されそう。錬金術師も薬師も複数いる程度には大きな町がいい。  けれど、貴族の多い街は困る。逆らっらヤバイのはわかるが対応の仕方がわからないし、関わりを持ちたくなかった。  領主さまくらいはいてもいいけど、一領民として埋没したい。つらつらと条件を考えているとナビゲーターが情報をくれる。 『お金で貴族位を買うといいです。成り金貴族がいっぱいいて、権限のないところなら、面倒な仕事は発生しないよ。貴族同士なら不当な扱いは受けないです。受けても正式に抗議できますから、手続き書類の作り方は手伝えるよ」  なんだろう。遠回しに、一領民になれないと主張されているのだろうか。  崖に囲まれ、プライベートビーチのようになっている白浜にパラソルを立て、日陰でカウチに寝そべる。しばらくすると2メートルくらいの魚が海面から飛び上がり突進してくる。この世界、魚釣りに釣竿が必要ないらしい。  風魔法で角の付きの頭を切り落とす。そのまま風魔法で3枚に下し、ナビゲーターに回収してもらう。火魔法で内蔵は焼却処分だ。  魚が陸上にいる獲物を狙うとはなかなかすごい進化である。きっと、魚狙いの鳥を食べる魚もいるだろう。  食べられる魚が相手なら、異世界流のこんな釣りも悪くない。見た目がアレな餌に触れなくていいし、道具がいらないので、手軽にできる。  それなりの広さはあるが、砂浜遊びはできそうにないし、海水から塩とニガリはもう確保している。  豆はここにたどり着く前にダンジョンで確保したし、〈ホーム〉の庭の畑にも植えた。豆から豆乳を作れば、湯葉と豆乳鍋と豆腐が楽しめる。  魚もかぶりで釣れているのは加工してみよう。干物と燻製、あと缶詰のヤツ。想像してたら、シーチキンマヨが食べたくなった。  海苔がない。  ここの海、海苔は取れるだろうか。 『海苔にも昆布もここの海にはありません。もっと南の地には得られるダンジョンはありますが、そこへ行くまでに大変危険な地があるよ』  行ってはいけないと、ナビゲーターが訴えてくる危険な地とはどれほどのものなのか。 『言葉にはできない危険さです。語れません』   ナビゲーターは詳細を消して語らなかった。
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