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 ナビゲーターが語らない危険地帯。夕食の話題に、フライトやネイトに心当たりがあるかと問えば、食事中には回答できないと2人ともが言う。   「近寄らなければ、知らなくても問題ない」 「お姉さん、知ると後悔するよ」  食後、2人に心配されたが、そこまで言われてしまうと逆に気になってしまう。  世界でもっとも嫌われているダンジョンと俗称され、冒険者にも地元住民にも不人気。あまりに酷くて、ダンジョンに潜るより鉱山送りの罪人のほうがマシとまで言われている。  下水道の覇者ダンジョン。名前からして匂いそうなダンジョンは、かなり強烈に臭う上に、状態異常疫病になる。その状態異常のまま人に接触すると感染してしまう。  聖魔法による治療は可能で、ダンジョンに潜る際は神官がダンジョンの外で待機している事になっている。  そんなダンジョンなので、ダンジョンに潜るのが仕事のような冒険者とはいえ、勝手にダンジョンに入ることはできない。許可制のダンジョンだ。  しかし、ダンジョン前で誰がか見張っているということもなく、入りたいなら入れなくはないが、入りたい冒険者もいないのが現状だった。  このダンジョン、モンスターは大きく分けて2種類しかいない。1つはネズミ。毒のあるモンスターで、ドロップするのが毒の肉や汚れた毛皮、臭い尻尾とどれも買取拒否どころか処分費用を取られるアイテムだ。  唯一売れそうなのがレアドロップ品の魔石。しかし、希少な病属性で、治療に使わらたら救われるものがいるが、悪用されると大変危険なため所持には登録が必要で、許可はそうそう出るものではなく、売る先も冒険者ギルド指定をされている。違反すると重罰もあり得る面倒な魔石だった。  そして、このダンジョンが嫌われる最大の理由がもう1種類のモンスターにある。黒光する、虫だ。1層モンスターでさえ30センチ超えの巨大なのが出てくる。  台所で数センチのを1匹見つけただけで悲鳴をあげる人も多いそいつが、巨大化して集団で待ち構えている。  ドロップ品はそいつを思わせる武具で、いくら性能がよくても側にいられるのは嫌だと、持っているとパーティーに入れてもらえない事態さえ起きていた。  そんな下水道の覇者ダンジョンは、Dランクパーティーの冒険者でも強さだけならダンジョンボスを倒せる。問題は、自分より背の高いそいつに立ち向かえる精神があるかと、50センチほどと大量取り巻きを殲滅できるかにかかっていた。  武力より大事な物があると言われるこのダンジョン。タチの悪い事に小規模なモンスターの掃き出しを度々起こす。  ダンジョンに訪ずれる者がいないとわずか3日てやらかす。寂しがり屋の構ってちゃんらしい。 『旦那より付き合いの長い親友に旦那取られて病んだ時にできちゃったダンジョンだから』  ナビゲーター、そんな世界の裏事情は知りたくなかった。 「あの辺りの町はダンジョンに入った証明がないと、冒険者は受け入れてくれないんだって。なのに、関所ではそれを教えなくて、滞在してから違法滞在だってダンジョン送りにするそうだよ」 「オレらなら確実にダンジョンボス討伐まで命令される。おそらく、1人1回以上だ」 「冒険者って、命令されないでしょう?」 「冒険者ギルドは命令しない。してもお願いまでだ。命令してくるのは領主。冒険者ギルドも抗議くらいはしているが、町の防衛に必要と言われてしまうとそれ以上のことはできない」 『だから、南下だけはやめよう』 「家の契約期間か終わったら、東にでも行ってみましょう」  そんなヤベーダンジョンがある町の近くにはいたくない。冒険者の気楽さで、移動するに限る。  しかし、異世界にもいるのか、アレ。 『生物としては優秀だから……』
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