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 2杯目の紅茶を注文したところで、店のドアが開いた。視線を向けると、フライトで目が合うとこちらへやってきた。 「そちらの男は?」 「20年くらい前の同郷の人。異世界失敗談を教えてもらっていたの」 「おや、異世界人としっている人かい?」 「冒険者ギルドがつけてくれた人。ダンジョン攻略も手伝ってくれるし、とっても助かっているわ」  フライトが珠莉の隣に座る。 「この世界の人が用意した人はハニトラに気をつけろ」 「ハーレム作った人の言葉は重いわ」 「騙されて作ったからこそだよ。子どもできちまうとな、いろいろあんだよ」 『もう逃げるしかなかったんだ。責めないでやって』 「そんな話を聞くと、逆ハー中学生とハーレム高校生が心配になるわね。初日にちょっと一緒にいただけの子だけど」 「学生の中に1人だけ社会人が混じったのか?」 「職場の人が3人一緒だったわ。三角関係の3人と」 「ドロドロ?」 「三角関係のうち2人が不倫。残り1名、社外に本名がいた」 「それ三角じゃないな。昼ドラ?」 「仮面夫婦2組の片割れが上司と部下のシュチュエーション酔いして、男取るのが趣味な女が参戦したけっかだから、昼ドラ的な重い愛はないんじゃないかしら?」  あの三角関係の中には真実の愛はない。出会う順番が悪かったわけでもなく、出会った順番のせいで楽しんでいる人たちだ。 「そういうの見てたらそれは婚期は逃すな。ハーレムの使用人、結婚怖いって言っていたからな」  男はにっと笑う。 「でも、元の世界より寿命は長い。お試しに結婚してみるのもありだよ。失敗してもやり直す時間はあるからね」  若々しく見える男の声に年長者の重みが加わる。 「オレはもう猫耳と偽乳には騙されないって決めている」  それは決め顔で語ることなのだろうか。でも、ちょっと気になった。 「奥さん全員その系統なの?」 「黒猫、白猫、虎、豹、灰猫、ライオンといろいろいたよ」 「性癖狙い撃ちじゃない」 「今は大丈夫だ。近頃は狼が可愛く感じる」  この人、また失敗しそうだ。 「そうだ、1年未満なら、カップラーメン持ってない? コンビニの揚げ物でもいいが」 『譲れるほどないよ。大学生と社会人女性の食事傾向は違います』 「錬金術でそれぽいの作りましょうか? ユートさんが失敗した国と逆ハーでやらかしている元女子高生のいる国の情報で作りますよ」 「とりあえず、どっちもこの国じゃない。それ以上の情報はカップラーメンと唐揚げの出来次第だ」 「唐揚げってこっちの世界もありますよね?」 「なんか違うんだよ」  露店で見た物を思い出し、スパイスが多すぎるのかも知れないと推測する。 「さすがに店の中で作るわけにいかないし、どこで作ろうかしら?」 「家くる? ここから近いし、不安なら、そっちの人も一緒でいいから」 「一緒に行かせてもらう」  ユートはにこにこ笑う 「この発言が出るだけ逆ハーした子の夫6よりいいよ。あいつら異世界人と争えないって逃げるからな」 「全員?」 「全員。しかも本妻がいる」 「はっ?」 「異世界人のお世話は仕事なんだよ。あいつらは、動物園の飼育係なんだよ」  珠莉は頭に手を当てて考えこむ。 「この世界って差別ありますよね?」 「あぁ。獣人差別もあるし、獣人に差別される事もある」 「異世界人って、すごくマイノリティーな種族ってことですよね」 「あぁ、希少で有益な異種族だ」  珠莉は仕事で作り慣れていた、感情を隠すための笑みを浮かべる。 「よく逃げられましたね」 「スキルとナビゲーターは神さまの慈悲だ。それを実感しているよ」  喫茶店を出てユートの家に向かう。通りを少し歩いて、角を一つ曲がるだけでたどりついたアパート。  こっちの世界は1人用の住居はあんまりなくて、家族用の部屋に1人で住んでいるそうだ。
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