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いつから住んでいるのかわからないが、もののない部屋だった。台所もほとんど使っていなさそうに見える。
ユートは1つしかないテーブルのイスにすわり、珠莉にソファーを進めた。ソファーにフライトも座れなくはなかったが、壁際で立っている。
「お皿あります?」
問えば、ソファー前の背の低いテーブルの上に出てきた。ナビゲーターが出したのだろう。
珠莉は錬金術鍋を出してもらって、食材を投入してもらう。珠莉がするのは錬金術を発動させることだけだ。
完全すると鍋をひっくり返すかえしてお皿の上に出す。
いつ立ったかわからない内にそばへ来て、手にしていたお箸で唐揚げをつまむ。
『前衛職の動きです。真っ当に冒険者ギルドに登録して活動していたらSランクになれてるよ』
『そっちは後衛だろ。争う気はないから、警戒しないでくれ』
ナビゲーター同士の会話を聞き流し、ユートは黙々と食べ続ける。悪くはないらしい。食べている間にカップラーメンに挑戦する。
まず木材で器と蓋を作ってみる。次に乾麺。
『ラーメンの麺にはかん水が必要で、かん水はアルカリ塩水溶解だから』
『難しく考えるな。海水だ。海水』
『先輩流石です』
『手打ち麺まではがんばったんだよ。不完全なものしかできなかったが』
なんなだろう。天使のナビゲーターが羽のある蛇に懐いていると堕天しそうと思えてしまう。
そんな事を思っている間に錬金鍋には材料が入れられた。魔力を流せば四角い乾麺が出来上がる。
それを器に入れた。
『スープは何味にしますか?』
『味噌だ』
何か骨とか野菜とかいろいろ入れられているが気にしない。作るのは粉末スープ。かやくもできるのだろうか。
『今回はスープだけに集中して下さい』
注意が入ったのでそうする。なんか粉ができたが、すぐに消えた。
『10杯分できたので回収しました。1杯分だけ器に入れます』
錬金鍋の中身、全部器に入れようとしたのに気づいて止めてくれたみたい。
いつもありがとう。助かってます。
大皿いっぱいの唐揚げを食べ、エコ素材のカップラーメンにユートはお湯を注いで3分待つ。そうして食べきった男は満足そうな顔をしていた。
約束通り、よろしくない国名前を教えてもらう。同じ国の可能性もあると思っていたが、別の国だった。
この2カ国は警戒しよう。
背の低いテーブルに合わせて床に座って食事をした男は、珠莉の方に向き直ると、両手で珠莉の右手を包み込んだ。
「結婚しよう」
「ムリ」
即答の珠莉と同じくらいの速さでフライトの蹴りがとぶ。ユートは立ち上がり避けて見せた。
「えー、何がムリなの? 職業、聖剣だよ。聖魔法の使える剣士で、とっても強いよ」
「ハーレム作った人に聖魔法って言わらても、ね」
性魔法に聞こえるのよね。
「この世界、強いって、稼げるってことだし、後衛職なら戦闘には不安があるだろ? 同郷の昔話もできるし、価値観も近い」
「騙されていようがハーレム作る男はイヤ。浮気癖のある男は浮気し続けるのよ」
「ひでぇな。君だけは大事にするよ」
「信用できるかっ」
「えー、そんな事言われたら、監禁しちゃう?」
ユートから魔法が放たれる。どうやら聖魔法の檻のようだ。珠莉は闇魔法で聖魔法を侵食し、消す。破壊されるまでのわずかな時間にフライトがユートに切りかかっていた。
2人が鍔迫り合いしている内に闇魔法でユートを拘束する。首から下を完全に包み込み、黒い芋虫みたいになった。
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