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床に転がされ、拘束されてもヘラヘラ笑っているユートを珠莉は見下ろす。
「あれ、なんて檻壊せてるの? 君、錬金術師だろ?」
『これだけ魔法が使えるならどっちも使える上級職だ。魔導師か賢者だろ。反応を見るに賢者だな』
あっちのナビゲーター優秀だ。
『20年の経験の差だよ。無能じゃないです』
そこまでは思っていない。いつもお世話になっているし、感謝してます。これからもどうぞよろしく。
『はい。がんばるよ』
ナビゲーターとほのぼのしたやりとりをしていると、フライトが剣を納めていた。フライトの大きな手が珠莉の肩に触れ、向きを変えられる。
「シュリ、その目によその男をうつさないでくれ」
「フライトさん?」
「オレだけを見ていてほしい」
えらく真面目な顔をされているけど、なんか、壊れた?
視界の隅で天使なナビゲーターが頭を抱えている。
「複数の奥さんはいらない。浮気もしない。シュリ、君と一緒になりたい」
珠莉はそっと手を伸ばしてフライトの額に触れる。
「熱はないわね」
『そうじゃないよー』
『ダメすぎる』
ナビゲーターに嘆かれ、ユートは爆笑していた。闇魔法を口まで上げて黙らせる。
「それはお仕事として?」
なんとか、落ち着いて問えた。
「オレの仕事は最初に出会った町にいる間だけだ。ネイトに聞けば証明してくれる」
「どういうことよ?」
「あいつの経歴からしてその手の感情に疎いわけがないだろ。初対面からネイトにバレバレだったんだ」
それは、つまり。
肩に置かれたい手に力が入り、引き寄せられる。フライトの唇が左耳に触れ、ささやく。
「好きだ」
両腕でしっかりと抱きしめられる。
「君と共にいたい」
珠莉は頷くようにして、フライトの肩に額を当てた。顔は隠せたが、赤くなった耳までは隠せない。
『やっと自覚した。やったー』
『そっちも苦労してるな。その男、ヒモ付きじゃないかちゃんと確認しておけよ』
『大丈夫です。ヒモ付きのふりして冒険者ギルドが他の人を寄越さないように、ずっと牽制してた人だよ』
『そうか、なら我々も協力しよう。新米ナビゲーターじゃわからないことも多いだろうし、後手にも回るだろう。手助けする報酬に、ちょっと食材を分けてくれたらそれでいい』
『そんなに唐揚げとラーメンが気に入ったのか』
『20年も過ぎればアイテムボックスに入っている物も食いつくしてしまった物が多い』
外野、うるさい。
露店を片付け出す時間帯に、手を繋いでネイトの所へ行った。
「やっと、お兄さん思い伝えれたんだ。よかったね」
にこにことネイトは祝福してくれる。
ずっとフライトが動けばくっつくと思っていたらしい。
「お姉さん、そばにいるのが嫌な相手なら1人でどっか行っちゃうでしょ。ボク、これでも都合のいい便利な人になるべくがんばったんだよ」
料理を始めたのはそんなきっかけで、今は楽しんでやっているそうだ。
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