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河川敷きに並ぶ露店と広場に並ぶ露店をつなぐいくつもある細い通りの1つ。3階建ての建物の1階に食事処を示す絵のついた看板が出ていた。
店内はあまり広くない。
カウンター席とテーブル席が3つあるだけ。席の間隔を詰めたら後1つか2つテーブルがおける。
この辺りの店はぎゅうぎゅうに席を詰めることが多いなか、ゆとりある空間を作っていた。
この店の常連の1人は羽の生えた蛇を連れていて、よくカウンター席に居座っている。メニューにない物を注文してくることが多い。しかし、金払いだけはいい男だった。
唐揚げ好きのこの男がやたらと食べるせいで、それをみた客まで食べだかってしまい、今ではメニューになっている。
コーヒーを楽しむためのオシャレなカフェになるはずだったのにと、この店のオーナーの女性はメニューの唐揚げになげいていた。
雇われ店長は、飾りつけで誤魔化し、なだめている。
食材調達してくる旦那様も唐揚げは気に入って食べているのだ。妥協点を作ってあげればオーナーも嫌はない。
店なドアが開き、ドアにつけられていたベルが鳴る。不幸を背負っているかのように暗く、疲れた顔をした男が入ってきた。
「バムスさん、いらしゃい」
さて、今日は誰を呼びに来たのか。顔の綺麗な店長は微笑みながら、次の言葉を待った。
常連客のSランク冒険者ならだいたいなんでもこなせる。この男がいない方が、食材調達から戻ってきた旦那様も機嫌がいい。
連れ出してくれれば都合がいいのだが、はずれた。
「調薬の依頼がありまして」
「今はダメだよ」
コーヒータイムを邪魔されるのをオーナーは嫌う。そのためだけに庭に場所を確保しているくらいだ。
なんでもオープンカフェ気分を味わいたいらしい。
この町のオープンカフェは人通りが多くて賑やか過ぎるからと、水路を臨む場所に陣取っている。
「理解しております。なので、食事しながら待たせていただきます。ハムサンドをお願いします」
真面目でお堅い冒険者ギルド職員。たぶん異世界人担当者。胃に優しいお茶を店長はサービスしてあげたくなる。
「バムス、臭いのキツイ薬草を使うなら辞めとけよ。妊婦には向かん」
「はっ?」
「それ本当?」
「げっ、なんでお前まで知らないんだよ」
『安定期に入るまであっちのナビゲーターが教えないつもりなんだろ』
「とにかく騒ぐな。本人が知らないならそっとしておけ、流産の心配が低くなる頃に本人も自覚するだろうから、それまで気づかいはしても悟らすなよ」
本人や旦那が知る前に周囲が知るっているのはどうなのだろうか。でも、気づかいや配慮は本人たちの方が向いていない。知った側がすればいいことだ。
「依頼内容の確認は今まで以上にさせていただきます」
「ボクも作る食事には気をつけよう」
「フライトには父親の心構を教えてやるかな」
家庭崩壊しそうだからやめてほしい。
「まず、キレた妊婦には何かあっても逆らってはいけない。どんな理不尽なことでも謝罪し続けるしかないと、教えるか」
それは父親の心構えでなない。さすが、見本にしたらダメな男だ。反面教師にできるならいいが、オーナーがこの男の妻たちに共感すると危険だ。
まだまだ2人のそばを離れるつもりのない男は、妊娠出産について調べる事を決める。乳母にはなれないけど、便利な男でいる限り追い出される心配はない。
故郷も家族も忘れてしまった元奴隷は、奴隷から解放してくれた2人に家族の姿を重ねていた。
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