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ばあちゃん
「ばあちゃん。ただいま」
「どこさ行って来た?」
「言ったよね。今日は、ダンスフェス」
「ふん」
四月も終わりの日曜日。
今日は、弘前でダンスフェスティバルがあったのだった。
私は青森市内のダンススクールで作ったチームでフェスに参加した。小学生の時から通っているスクールのヒップホップのダンスチーム。
私はセンター。
私の名前は、佐々木林檎。
市内の県立高校に通う高校二年生だ。
私達7人のダンスチームはスクールでも精鋭だった。
今日もたくさんの声援を送られ、たくさんの賛辞をいただいた。
弘前からJRに乗って、青森駅。そこでみんなと別れて、私は青い森鉄道に乗って家に帰ってきた。その間、私はずっと有頂天だった。
でも。家に帰ってきた途端、これだ。
「ばったんばったん踊ってな」
「そういう踊りなんだ」
「楽しいのか?」
「最高」
「いいむすめが」
自動車の修理工場を経営している両親は、日曜の夕方でも留守にしていることが多い。小さな一戸建ての古い家。居間のいつもの座椅子にばあちゃんは座ってテレビを見ていた。そこに私は帰ってきた。まだばあちゃんは一度もこちらに顔を向けていない。
「治夫もなんにも言わねえから」
「お父さんは賛成してくれてる」
「はあ」
「ねえ。ばあちゃん」
ばあちゃんはその時初めてこっちを向いた。
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