ばあちゃん

1/1
前へ
/58ページ
次へ

ばあちゃん

「ばあちゃん。ただいま」 「どこさ行って来た?」 「言ったよね。今日は、ダンスフェス」 「ふん」 四月も終わりの日曜日。 今日は、弘前でダンスフェスティバルがあったのだった。 私は青森市内のダンススクールで作ったチームでフェスに参加した。小学生の時から通っているスクールのヒップホップのダンスチーム。 私はセンター。 私の名前は、佐々木林檎。 市内の県立高校に通う高校二年生だ。 私達7人のダンスチームはスクールでも精鋭だった。 今日もたくさんの声援を送られ、たくさんの賛辞をいただいた。 弘前からJRに乗って、青森駅。そこでみんなと別れて、私は青い森鉄道に乗って家に帰ってきた。その間、私はずっと有頂天だった。 でも。家に帰ってきた途端、これだ。 「ばったんばったん踊ってな」 「そういう踊りなんだ」 「楽しいのか?」 「最高」 「いいむすめが」 自動車の修理工場を経営している両親は、日曜の夕方でも留守にしていることが多い。小さな一戸建ての古い家。居間のいつもの座椅子にばあちゃんは座ってテレビを見ていた。そこに私は帰ってきた。まだばあちゃんは一度もこちらに顔を向けていない。 「治夫もなんにも言わねえから」 「お父さんは賛成してくれてる」 「はあ」 「ねえ。ばあちゃん」 ばあちゃんはその時初めてこっちを向いた。
/58ページ

最初のコメントを投稿しよう!

19人が本棚に入れています
本棚に追加