ハネト

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ハネト

「お母さんはさ、毎年ハネトでねぶた祭りに出てるよね」 私はバッグを放り投げてソファに座った。 「ハネトはハネトだ。一緒にするもんじゃねえ」 「どう違うの?」 ハネトというのは、毎年夏、ねぶた祭りの時に、踊りながら山車の周りをついていく者たちのことだ。花飾りをつけた派手な笠をかぶり浴衣を着て、鈴を鳴らしながらぴょんぴょん跳んで踊る。 「らっせら、らっせら、らっせらっせらっせら」 「知ってるよ。掛け声。私だって跳ねたことあるもん」 「ありゃ、いいもんだ」 「そうだね。じゃ、私のはなんで駄目?」 ばあちゃんは口をもごもごさせながら私の足の先から頭の上までをゆっくり眺めた。 「そのナリは、なんだ?」 「駄目?」 「わからんか。ばかでねな」 その時の私は、ピンクのアイシャドーにつけまつげ。 オレンジの丸いサングラスを鼻からずらしてかけ、へそを出した短い紫のシャツに、蛍光イエローのミニスカート。そして、まだら模様の原色靴下。 「ハネトだって一緒じゃない?ド派手だ」 「一緒にすんなてば。みったくね」 「ばあちゃん」 一生懸命頑張って踊って帰ってきて、ここまで言われるとは思わなかった。 自分の衣装を眺めると、それが急に忌まわしいものに見えて悲しくなった。 「節がな、好きでねえ」 「リズムだね」 「何歌ってんのかわかんね」 「ラップだ」 「どんどん、どんどん」 「重低音」 嫌いなら仕方がない。 私だって、ハンバーガーの中に入ってるピクルスがいまだに食べられない。 強いられたって、食べられないものは食べられない。 私はばあちゃんの意見に納得することにした。例え自分の孫が真剣に取り組んでいるものであっても、好きになれないものは好きになれないのだ。 「お茶、入れるけど飲む?ばあちゃん」 「ああ。悪いな」
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