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マンガコーナーの隅にひっそりとあったフリースペース。
そこで私達はコーヒーやお茶を飲みながら、ひたすらなんてこともない会話を楽しんだ。
時々好きなマンガを紹介したり、またパズルゲームの話をしたり。
大学で専攻している分野とか、地元の話など、少し改まった事柄についても知ることができて嬉しい。
星くんは博識で、どの分野の話をしても面白い。
何より、話している時の、好奇心に溢れた楽しそうな目が綺麗だと思った。
星くんに何度も見惚れては、それに気づかれないようにお茶を飲む。
「町田さん、英文科なんだ。だからこの間、外国人のお客さんへの説明上手かったんだな」
「全然!めちゃくちゃ片言だったよ。でも、外国の人と話すのは好きかも」
「すげーなー」
星くんはその目を輝かせて笑う。
とても深夜とは思えない表情だ。
「そういう星くんも、理工学部なんてすごいよ。みるからに賢いもんね。仕事も手際が良いし、集中力あるし。全体のことがよく見えてるし、予想外のアクシデントにも冷静に対処できるし、丁寧で親切だし、あとは」
星くんの良いところを上げていたらいつの間にか暴走し、ハッと我に返った時には目の前の彼が真っ赤になって俯いていることに気づいた。
「ごめん!いや、なんか、働きぶりが、凄く、勉強になりまして、」
今更焦ってしどろもどろになる私を、星くんは笑った。
「……ありがとう」
「いえ……そんな」
……これ、もうバレてるんじゃないだろうか。私の気持ち。
でも、どうする?今、言っちゃう?
いやしかし、星くんにそんな気がなかったとしたら、朝までかなり気まずい状況に陥る。
朝までどころじゃない。これからずっと、バイト中も。
……もう、こうして夜を明かすことも二度とないかもしれない。
「ごめんな」
「え!?」
告白する前から玉砕!?
「今回も俺、勝手にネットカフェって決めちゃって」
「ううん!楽しい!」
うわー、セーフ。生き延びた。
首の皮一枚繋がった心境。
「良かった。……じゃあさ」
星くんはまた優しい微笑みを浮かべながら、そっと言った。
「じゃあ次回は、町田さんが行きたいとこにしよう」
「え……」
次回……。
次回もあるんだ。やった。……やった!
どうしよう嬉しい。
「ごめん、迷惑?」
上目遣いになる星くんに悶えながら、首をぶんぶんと振り回した。
「いややややや!楽しみ!楽しみにしてる!」
「良かった」
真っ赤になりながらニッコリ笑う星くんが可愛くて。
結局思いを伝えることができないまま、私達は朝までフリースペースでマンガを読み更けた。
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