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「どこ行くか決まった?」
とりあえず繁華街を歩いていく途中、星くんはどこか楽しそうに笑った。
嬉しくて、私も顔が緩む。
「うん」
なんだかワンナイトラブというより、秘密基地に向かう子供みたいな心境だ。
「映画館なんてどうかな?」
駅から少し離れた場所にある、ミニシアターや昔の名作も観れる小さな映画館。
いつかデートの時に行きたいなって、ずっと憧れていた場所だ。
「いいねそれ!レイトショー俺も観てみたかった!」
満面の笑みで賛同してくれる星くん。
デートじゃないよね。と自分を戒めながらも、高鳴る胸を抑えることはできなかった。
「星くんどれが良い?」
チケット売り場でしばしラインナップを吟味する私達。
「町田さんが観たいやつが良いな」
星くんは優しく笑う。
「えっと……」
星くんと一緒に観れるならなんでも良いと思っていたので、選択に迷った。
もしかして、センスが問われるんじゃないだろうか。
こういう好みの相性って、大事だって言うし。
ここで「ちょっと合わないかな」って思われたら、恋人として対象外にならないだろうか……。
「なんでも大丈夫だよ」
作品一覧を前に固まる私に、星くんは優しく囁いた。
「町田さんと一緒に観れるなら、それだけで楽しいから」
真っ赤になりながらも微笑んでくれる星くんに、じわりと涙腺が緩む。
同じこと、思ってくれた。
「それに、町田さんが好きなもの、もっと知りたい」
こんなふうに寄り添ってくれるのは、星くんの人徳が織り成すもの?
それとも、ちょっとだけ調子に乗ってもいいんだろうか。
「……ありがとう」
結局、落ち着いた雰囲気の洋画ミステリー作品を選んだ。
星くんは「面白そう!」と笑ってくれて、ますます胸がじんとする。
「じゃあちょっと待ってて」
一人で売り場カウンターへ向かう星くんの腕を、思い切り掴んだ。
「待って星くん、私が買ってくる」
実は最初の日のファミレスも、その次のネットカフェも、全部星くんに負担させてしまったから、今日こそは私がお返しするって決めてたんだ。
「この間のお返し!」
そう微笑んでも、星くんは頷かない。
「大丈夫。……俺が付き合わせてるんだし」
「……え?」
…………え?
いやいやいや!付き合わせてるのはこちらの方です!
「違うよ!私が付き合わせてる!」
「いや、俺が付き合わせてる」
「私だよ!」
何故か謎の言い合いをしてしまった後、お互いに我に返って顔を見合わせた。
そして、どちらからともなく笑う。
「……ありがとう」
「……こちらこそ」
謎の会釈をし合って、今度こそカウンターへ。
「とにかく今日は俺に払わせて」
「でも……」
「少しはカッコつけさせてよ」
またもや真っ赤になりながら目をそらす星くんに、「充分格好いいです」と言いそうになるのを堪えた。
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