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コーヒーを飲みながら、物語の動向を固唾を飲んで見守った。
謎が謎を呼び、誰が犯人なのか全くわからない。
次々起こる殺人事件。
だけど固唾を飲んでいる理由は、それだけではなかった。
「……っ」
「……っ」
コーヒーをとろうとして、星くんの手に私の手が当たる。
慌てて腕を引っ込め、お互い黙って会釈した。
……近い。近すぎる。
小さな映画館だから、座席の間隔が狭いんだ。
少しでも動くものなら星くんのどこかしらに触れてしまいそうで、もう平常心ではいられなかった。
だけどしばらくして、私はまた別の理由で何度も冷や汗をかき、固唾を飲むことになる。
……気持ち悪い。
映画の中盤で、猛烈な吐き気を催した。
きっと慣れないビールを飲んだせいだ。
四時間前の、調子に乗っていた自分を恨む。
吐き気を煽るようにして行われる巨大スクリーン内の惨劇に、思わず口元に手を当てた。
ダメだ。……もう、限界。
「……町田さん」
小さな囁き声が聞こえたと同時に、星くんが立ち上がる。
驚いて見上げる私に屈んで近づき、そのまま私の身体を抱えあげた。
「え!?」
咄嗟に出てしまった叫びを、慌てて引っ込めた。
驚くほど軽々しく宙に浮いた身体に、頭が追いつかない。
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