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「ちょ、ちょっと星くん!?……うっぷ」
フロアに出るやいなや大声を出した拍子に、再び吐き気が襲った。
まずい。いよいよまずい。
このままでは、星くんの前で失態を……。
「大丈夫!?」
星くんは私を担いだまま、猛スピードでトイレまで走ってくれて、なんとか粗相をせずに済んだ。
だけどトイレから出た私は、絶望と不甲斐なさで、星くんの顔を見ることすら辛かった。
なんてことをしてしまったんだろう。
今日は星くんと一緒に夜を明かす大事な日だったのに、調子に乗ってビールなんて飲むから。
映画も途中になってしまったし、トイレでリバースした奴となんてこれ以上一緒にいたくないと思う。
「大丈夫?町田さん」
トイレの近くのベンチで待っていてくれた星くん。
彼はすぐに私を座らせると、ペットボトルのお水を差し出してくれた。
「ありがとう。……ホントにごめんね」
「全然。それより具合、大丈夫?」
心底心配そうな顔をしてくれる星くんに、余計胸が痛くなる。
「ごめんね。映画の途中だったのに。もう一度戻ろうか」
星くんは首を振る。
「無理すんなよ。少し休まないと」
「じゃ、じゃあ、星くんだけでも観てきて」
「大丈夫。それより、ちゃんと横になった方がいいんじゃない?どっか泊まろうか」
「泊まっ!?」
私の大声に、星くんは固まった。
「い、いや!違う!別々!別々だから!」
「う、うん!わかってます!」
こんな時に何を考えてるんだ。
相当迷惑かけてるのに。
「もし抵抗があるなら、タクシーで送るよ」
「え……」
そんな。
せっかく星くんと、憧れだった映画デート(と今だけは言いたい)だったのに。
どこかに泊まったとしても、タクシーで帰ったとしても、どちらを選択しても朝まで一緒には過ごせない。
もしかしたら、この一件で星くんも面倒臭くなり、もう二度と付き合ってくれないかも。
「う……」
いろんな考えが頭を過っているうちに、気づいたら涙が溢れおちていた。
「町田さん!?大丈夫!?具合悪いの!?」
タオルで顔を覆いながら、ぶんぶんと頭を横に振った。
「違うの。……そうじゃなくて……一緒に居たい」
「町田さん?」
どうかしている。
こんな、子供みたいに泣いて我が儘言うなんて。
「星くんと……一緒に居たいの」
もうこれで、ワンナイトもおしまいだ。
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