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「……じゃあさ」
星くんの右手は、私の左手をそっと握った。
心臓が止まりそう。
「じゃあ、俺と」
「だったら良い場所ありますよ」
星くんが神妙な顔で何かを言いかけるのと同時に、男性の弾んだ声が響いた。
びっくりして私達は絶句する。
声の主は、この映画館のスタッフのおじさんで、さっきチケットをもぎってくれた人だ。
「僕の詰所貸してあげるよ。今日は使わないし」
「え!?」
「そんな!大丈夫ですから!」
何度もお辞儀して恐縮する私達を、おじさんは笑った。
「いいっていいって。具合悪いんでしょ?使って」
「でも……」
「なんか二人、初々しくて可愛いからさぁ。おじさん、応援したくなっちゃって」
おじさんの笑顔に、私達は顔を見合わせて固まった。
手を繋いでいることを思い出し、慌ててお互いに手を離す。
「じゃあこっちおいで。皆には内緒ね」
「は、はい」
「ありがとうございます」
皆って誰?と思いながらも、人差し指を口に当てウィンクするおじさんがチャーミングで、断るタイミングを失ってしまった。
「ど、どうしよう星くん」
咄嗟に星くんの袖を掴む私に、星くんは笑った。
「せっかく言ってくれたんだし、有り難く甘えようか」
嘘でしょ。
まさかの展開だ。
それはそれは、夢のような展開。
ありがとう、おじさん。
ありがとう、おじさん。
何度も何度も心の中でおじさんにお礼を言いながら、星くんと共におじさんの後を追って地下に降りる。
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