第三夜

6/10
前へ
/34ページ
次へ
「……じゃあさ」  星くんの右手は、私の左手をそっと握った。  心臓が止まりそう。 「じゃあ、俺と」 「だったら良い場所ありますよ」  星くんが神妙な顔で何かを言いかけるのと同時に、男性の弾んだ声が響いた。  びっくりして私達は絶句する。  声の主は、この映画館のスタッフのおじさんで、さっきチケットをもぎってくれた人だ。 「僕の詰所貸してあげるよ。今日は使わないし」 「え!?」 「そんな!大丈夫ですから!」  何度もお辞儀して恐縮する私達を、おじさんは笑った。 「いいっていいって。具合悪いんでしょ?使って」 「でも……」 「なんか二人、初々しくて可愛いからさぁ。おじさん、応援したくなっちゃって」  おじさんの笑顔に、私達は顔を見合わせて固まった。  手を繋いでいることを思い出し、慌ててお互いに手を離す。 「じゃあこっちおいで。皆には内緒ね」 「は、はい」 「ありがとうございます」  皆って誰?と思いながらも、人差し指を口に当てウィンクするおじさんがチャーミングで、断るタイミングを失ってしまった。 「ど、どうしよう星くん」  咄嗟に星くんの袖を掴む私に、星くんは笑った。 「せっかく言ってくれたんだし、有り難く甘えようか」  嘘でしょ。  まさかの展開だ。  それはそれは、夢のような展開。  ありがとう、おじさん。  ありがとう、おじさん。  何度も何度も心の中でおじさんにお礼を言いながら、星くんと共におじさんの後を追って地下に降りる。  
/34ページ

最初のコメントを投稿しよう!

174人が本棚に入れています
本棚に追加