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「じゃあ、何かあったらカウンター来て。ここにあるもの勝手に使っていいから。朝まで居てもいいからね」
昔話に出てくる神様のような笑みで去って行くおじさんに何度もお礼を言って、私達は小さな部屋を見渡した。
よく話を聞いてみると、おじさんはここの劇場の支配人らしい。
「なんだか悪いことしちゃったね」
「すげー良い人だな」
「…………」
「…………」
目を合わせたら、急激に二人きりを意識し始めてしまった。
気を紛らわせたくて、気の利いた話を振りたくて、必死にまた部屋を見渡す。
グレーのカーペットが敷かれた小さな部屋には、ローテーブルと一人暮らし用の冷蔵庫、茶色いブランケットが置かれている。
私達は恐る恐る腰を下ろした。
「体調、少し落ち着いた?」
「うん。……ごめんね。ホントに」
「謝んなよ。本当に、大丈夫だから」
星くんがいつものように柔らかく笑ってくれたので、少しホッとする。
「映画、良いとこだったのに」
やっとそろそろ犯人がわかりそうな、解決に向けて動き出したところだったのに。
「確かに続き気になるな」
「ごめん!」
「いや、そうじゃなくてさ」
星くんは笑った。
「また今度、一緒に観に来よう」
あまりにも自然に言ってくれたので、再び涙腺が緩む。
「また、一緒に観てくれるの?」
「……町田さんが良ければ」
「もちろんだよ!」
勢いよく身を乗り出す私を、彼は更に笑った。
「ありがとう。星くん」
「こちらこそ」
「…………」
「…………」
ああまた二人きりを意識してしまった。
定期的にやってくる猛烈な恥ずかしさと緊張に悶える。
「あのさ……」
「な、何!?」
大声を出す私に目を丸くさせる星くん。
一呼吸置いて、また話しだした。
「あのさ……」
「うん……」
ためる。星くんものすごくためる。
こんなにためられたら、自ずと次の言葉の期待値が高まってしまう。
「あの……」
「うん……」
「いや、なんていうか」
……ためる!
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