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「おめでとうございます!」
クラッカーの音と共に、私は祝福された。
「あなたは、当店の10000人目のお客様です」
立派なヒゲの男が私に近づいてきた。
近づいて近づいて、目と鼻の先まで近づいてきた。
「おめでとうございます!」
唇と唇が触れ合う。
「おめでブチュ、ブチュチュ、ございます!」
あっけに取られていた私は、ヒゲを突き飛ばした。
ヒゲがよろけながら指を鳴らした。
「おめでとうございます!」
黒服の屈強な男たちが現れ、私を担ぎ上げた。
「わっしょい!わっしょい!おめでとうございます!」
男たちは私を天高く掲げたまま店を出て、商店街を練り歩いた。
道ゆく人が私を指差す。
「わあ、おめでたいな。」
「おめでたいわね。」
人々は財布を取り出し、私に小銭を投げつけた。
商店街の入り口付近までお祭り騒ぎは続いた。
「⚪︎×商店街へようこそ!」の垂れ幕の真下で、私は地面に叩きつけられた。
男たちは私に向かってツバを吐いた。
「もう、おめでたくねえよ。」
私は蹴られた、殴られた。
痛みと驚きで身動きが取れずボロ雑巾のように横たわる私に、子供たちが駆け寄った。
「まったくもって、おめでたくないや。」
子供たちは、私にションベンをかけた。
OLの集団は、私の姿を写真に撮ってSNSにアップした。
腕が丸太のように太い大男がやってきて、両腕の骨を折られた。
「おめでたくない人の前に集合ね。」
私は、待ち合わせ場所にされた。
コンクリートの地面をドリルで削り、私は首から下を地面に埋められた。
「顔が私で体がブタの銅像」を作るための、バカみたいな額の予算案が可決された。
盗賊は財宝を私の口の中に隠した。
ゴルフのスイングの要領でこめかみを打ち抜かれた。
私の首を囲むようにガラスケースを設置し、あらゆる毒虫を飼い始めた。
最後に残った毒虫は、神の使いとして、時の皇帝にもてはやされた。
深夜の2時には、怪談師が、私の前で身の毛もよだつ幽霊話を聴かせた。
防弾チョッキの耐久テストは、私の体で行われた。
私の顔に化粧を施し、即座に野良犬に舐めとらせた。
私に映画を視聴させ、ラスト15分で上映をやめた。
私はついに、何の反応も示さなくなり、人々は私のことを忘れた。
薄れる意識の中、商店街の奥から祭囃子の音色が近づくのを、はっきりと聞いた。
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