もふもふ可愛い狼くん

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もふもふ可愛い狼くん

「やだ~、狼じゃない。そんなの放っておいて早く戻りましょう?」 「……うそ、狼なの?」  精霊の森で子犬を見つけたと思ったら、なんと狼の子供だった。  狼なんて絵本や遠足で行った動物園で見たことがあったくらいだ。  それだって子供の頃だからおぼろげな記憶しかない。  そりゃ、わかる訳がない。  フェアリーに言われて初めて知ることとなった。  狼といえば、童話などの物語のなかでも悪役だと相場が決まっている。  本で知り得た情報によると、ローマ時代には神に近い存在だったらしいが、中世以降は忌まわしいものとして扱われるようになったからだそうだ。  どうやらそれは、今いるこの世界にとっても、そうであるらしい。  いきなり森のなかへと駆け込んでしまった私を追ってきたフェアリーは、私が抱え上げたばかりの、見るからにぐったりしている狼の子供の姿を視認した途端、忌々しげに綺麗な顔をゆがめている。 「そうよ。助けたりなんかしたって、恩返しされるどころか、食べられちゃうのがオチよ」 「……で、でも」  子犬だと思っていた私も狼と知り恐怖を覚えた。  けれども抱え上げた狼の子供は、背中に大きな怪我を負っているだけでなく、頼りないくらい軽いし。ぐったりとしていて呼吸も弱く虫の息だ。  今にも寿命を全うしてしまいそうだった。  このまま放置してたら、おそらく一時間ももたないだろう。  そんな瀕死の状態で放置なんてできるはずがない。 ーーなんとかして助けてあげなきゃ。  私の中の庇護欲が掻き立てられた。  自分自身もルーカスさんに救ってもらった身なので、他人事には思えなかったというのもある。 「私、放置なんかできない。何もできないかもしれないけど、助けてあげたい」  依然、至極嫌そうに眉間に皺を寄せているフェアリーに対して、そう言い放ち、狼の子供を助けた日から、一週間ほどが経った。  あの後、狼が怖いからではなく、ただ単に、毛むくじゃらの獣が嫌いだというフェアリーが止めるのも聞かずに、家に連れ帰り、ルーカスさんに診てもらったところ。 『傷は深いようですが、ノゾミ様の治癒魔法をもってすれば、直に癒えるでしょう』 『よかったぁ』  聖女として召喚された私の秘められているらしい治癒魔法で救うことができるという言葉に安堵しているところへ。 『ただ、この傷、ただの傷ではなさそうですじゃ』  今度は苦虫をかみつぶしたような難しい表情をしたルーカスさんの暗い声音が投下された。
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