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レベル1 勇者の再出発
マッケイ・ヌーはゆっくり目を開けた。ヌー村で産まれ育ったマッケイだから、マッケイ・ヌーと名乗ってきた。
彼は草原に寝ていた。草の丈は低く、身は柔らかい。牧草地のよう。
起き上がろうとして、体の異変に気付いた。
息が苦しい、関節が動かない、背骨がかたまっている・・・何がどうなったのか?
胸のポケットを探った。
簾魔報(スマホ)を取り出した。この世界では、誰でも持っている魔法装具だ。通信や記録など、色々な機能がある。以後スマホと書く。
「え・・・圏外だって?」
何所とも誰とも通信できない状態だった。
なぜ、とあれこれ操作した。自分の個人情報は表示できた。レベル=1と表示された。
「レベル・・・1! そんな・・・そんなバカな?」
落ち着け、と自分に言い聞かせる。
レベル以外のステータスを見た。攻撃力=1、防御力=1、魔力=1、素早さ=1、運=1、魅力=1、スキル=無し、属性=無し・・・最低の数字が並んでいる。かつては、これらのステータスで256以下の数字は無かったはず。
スマホは所有者の魔法レベルにより機能が変化する。レベル1から5は児童レベルとされ、親や保護者との通信に限定される。レベル10になると、大人として村の中での通信に制限はなくなる。都逸田(ツイッター)と呼ばれる文書通信も可能になる。レベル30になれば、国内での通信はフリーにできる。レベル50になれば、異国へ行っても楼民惧(ローミング)機能で通信の自由度は高い。
かつては、マッケイはレベル99+、全ての通信が無制限だった。今は・・・何もできない。
「マッケイ・ヌーよ、皇帝の御政道に意見した罪を思い知れ!」
声に、振り向いた。
黄金に輝く大鷲がいた。きいーっ、声を張り上げ、飛び去って行く。
「死ね、死ね、死んでしまえ。力無き者たちに叩きのめされ、餌食となって果てよ」
呪いの言葉を残して、黄金の大鷲は空に消えた。
「皇帝の飼い鷲、シュバーンか。皇帝がいない所では、おしゃべりなヤツだったんだ」
マッケイは頭をかいて、ため息した。
「ここは・・・どこだ?」
マッケイは立ち上がる。
周囲を見渡すが、見知った景色ではない。産まれ育ったヌー村ではないが、そう遠くもなさそう。
またスマホを見た。地図アプリを起動して、現在位置を・・・見られない。レベル1で見る面積に制限があって、その中に人の住む村が無いようだ。レベル99+の頃は世界地図が見られたはずなのに。
ずきっ、額に痛みがきた。何かが突き刺さったような、何かの錘が額にめり込んだような感覚。
ブーン、虫が寄って来た。
とお、腕を振って払う・・・できなかった。振りがにぶく、虫にかわされた。
レベル99+の頃なら、軽くつまんで潰せたのに。
ブーンブーン、虫の新手が群れで迫って来た。
マッケイは逃げ出した。
レベル1では、虫とのケンカも勝ち目は無さそうだ。
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