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「ありゃ弁償させられるかな」
「さぁな」
皇の活躍により体育会寮ゾンビ侵入事件は幕を閉じたが、僕たちは久しぶりに死を覚悟した。と同時に体育会生の心の優しさを実感したのだ。
「皇の家電製品全部壊れちまった」
「でもいいんじゃね、家電よりも友の命だろ。それにお詫びの気持ちをこめて玄関にも一応バリケード作ったし」
それは皇の言葉だろと心で思いながらも、こうやって生きていることはかわりない。下手をすれば全滅になりかけた原因を作った菱田は悪びれることもなく笑う。
「俺さ、最初はこんなところで生活すんの嫌だったけどさ、お前らとなら楽しいからもう少しこのままでもいいかなって思ってきたんだ」
「なんだよバカかお前」
僕は頭にちょこんと乗っかった野球帽のつばを叩き、菱田はおどけたように肩を上げる。爽やかな風が血なまぐさい匂いと、誰かの金切り声を運んでくる。しかし少し広くなった皇の部屋はいつもと変わらない僕たちの日常が存在していた。
階段をどたどた登る音が聞こえる。二秒後、皇が破竹の勢いでドアをあけ満面の笑みを浮かべて言った。
「愚民ども底抜けに喜べ! 大量のインスタントラーメンかき集めてきたぞ、さぁ崇め奉れ」
僕たち愚民は拍手と共に歓声を上げる。寮内探検隊隊長の皇はもう帰ることがないであろう寮生の田中の部屋から食料をハントしてくる、れっきとしたハンターだ。
「田中ありがとう、お前の死は無駄にしない」
「おいおい、まだ田中死んだってわかんないだろ」
「いや死んだよ田中はお星さまになったのさ」
「おい、愚民の分際で明星チャルメラとるな!」
「お前ら、ちょっとは落ち着けって」
菱田が悪態をついて、僕が訂正して、皇が突っ込む。毎日がこの繰り返しで僕たちはラーメンをすする。味の種類は醤油しかない一個200円程の安いラーメンだが、今はどんな食べ物よりもおいしく感じた。
「ところでお前はなんでぬいてんのかな?」
麺をすすることに夢中になっていた菱田だが、半分ほど胃袋に収めたところで菱田は口を開いた。
「あぁ」
「いやあの時オナ〇ーもできないっていってたからさ、まさかセルフ……」
皇はおもむろにポケットから取り出したものはスマートフォンで……。
「えっ! なんでお前携帯持ってんだ!」
「えっ、お前ら持ってないの?」
「持ってるわけねぇだろ、事件が起きたとき部活中で、ってかなぜいままで隠してた!」
「だって聞かれなかったから」
素っ頓狂な顔で言うものだから、こちらがたじろいでしまう。菱田は僕と目を合わし、俺間違ってないよねっとわかりやすい目配せ。
「で、どうするよ」
挑発的な皇の態度に菱田は身を乗りだして反論する。
「バカかてめぇは早く政府に連絡しろよ。こんなくそみたいな生活ともおさらばだ」
「いや、さっきまでこの生活も悪くないっていってたじゃん」
訂正すると、菱田は僕の肩を思いきり叩いて、
「あほかてめぇは、外に出たらその記念として俺は金髪のねーちゃんがいるお店に行っていっぱいおっぱいを揉む!」
事件発生から一ヶ月。僕たちは今日も楽しくやってます。
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