ムーンライト伝説なんてクソくらえ

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“何度も捨てようと思った感情だ。でも、どうせ捨てるなら、お前に告げてから捨てようと思った” 頭の中で木霊する、何度も何度も。 “好きだ、お前が” 前世から知っているかのように、何度も何度も。 “雨麗(うれい)、俺はお前が好きだ” 好きな人の言葉を、何度も何度も。 “俺と、付き合ってくれないか、雨麗” きっと、一生忘れられないと思う。 好きな人を、降った日のことを、俺は一生引きずって生きていくと思う。 “ゴメン、陽大(ようだい)。俺は、お前とはそういう関係にはなれない” 日曜日、朝、8時15分22秒。 今から出かけたって、練習には間に合わないだろう。 エースがサボり。 なんてダメな部活だ。 まあ、俺のせいなんだけどね。 そういうダメな体育会系こと俺・月守(つきもり)雨麗(うれい)は、公立三保南高等学校の男子バレーボール部におけるエースプレイヤーとして持て囃されている。 これは自慢ではなく、誇張した表現でもなく、純然とした事実で、受け入れたくない現実であった。 性格的に向いていないのだ、そういうポジションは。 いや、そういう愚痴は今は置いておこう。 俺・月守雨麗は、公立三保南高等学校の男子バレーボール部におけるエースプレイヤーであり、そんな俺が、例え通常練習しかしないとはいえ、気軽にサボってしまったら、その日の部活の士気に関わる大問題である。 それでも、急いで支度をして、学校まで走る気になれないのは、もう、俺にさえどうしようもないことであった。 「昨日の今日だぞ、無理に決まってんじゃん……」 日曜日、朝、8時29分57秒。 何となく、テレビをつけた。 女児向けのテレビ番組が放送していた。 幼い頃に見たことがあるアニメーションだが、きっとリメイクというやつだろう。 映像が今風に描き直され、演出や効果などが今日的な演出に代わっている。 しかし、オープニングを飾る楽曲は、聞き覚えあると感じた。 歌い手が変わっても、アレンジが変わっても、リリックという歌の根本的なところは変わらないようで、これは雨麗もそらで歌える。 「……地球に生まれたってだけで“ミラクルロマンス”なんて言えないだろ、フツー」 ロマンス、今一番聞きたくない言葉のひとつだ。 だって、雨麗のラブロマンスは、昨日終わったばかりなんだから。 いや、“終わった”なんて受動的な言い方をしてはいけない。 自分で終わらせたのだ。 自分の手で舞台の幕を下ろした。 舞台に上がる度胸さえ、雨麗には無かった。 「よかったー、陽大からのラインは無し」 バレー部部長兼昨日振った男からの、サボりについてのお咎めメッセージが来ていないことに安心する程度の、しょうもない人間でしかないのだ、俺は。 日曜日、夕方、17時09分30秒。 「やべー、明日もう月曜日だよ」 そう、明日は流石に逃げられない。 明日は月曜日だ、学校がある。 「宿題、くらいは終わらせねえと」 なんて言葉を吐きはするものの、机に向かう気にもなれない。 結局、此処まで切羽詰まった状況になっても、尚、雨麗は何もできないのだ。 宿題についても、恋愛についても同じことだ。 その点、昨日、雨麗に告白をしてきた男は、実に潔かった。 己の感情をすんなり受け入れ、正面切って雨麗に告白をしてきた。 折れず、曲がらず、腐らず、捻くれない、清廉潔白、質実剛健、そういう男であった、雨麗に惚れてくれた男は。 愛の告白をするときも、ブレることなく、歪むことなく、日ノ原(ひのはら)陽大(ようだい)は日ノ原陽大のままだった。 そういうところが、好きだった。 それなのに、振ったのか。 と、問われたら、雨麗は答えることが出来ない。 いや、理屈として頭の中に語れるものを持ってはいるが、言語にすることが難しいのだ。 「近すぎるんだよ、お前」 そう、近いという言葉さえ距離感を感じてしまうくらい、自分の傍に居るのが当たり前の男だ、日ノ原陽大という男は。 同性で、同級生で、同じ部活に所属していて、同じポジションを守っている。 だから振った。 近すぎるから、振った。 友達だったから、振った。 友達を恋人にすることは出来ないから振った。 だって、ちょっと考えてみろ。 関係性が友達から恋人に代わったとして、もしも恋が御破算となったとき、日ノ原陽大は、また自分を友達として傍に置いてくれるだろうか。 それを考えたとき、答えはどう足掻いても“ノー”でしかなくて。 恋人じゃなくなった、それだけでも自殺したくなるほどの恐怖と苦しみを負うことになりそうだというのに、友達というポジションも消えてなくなってしまったら、雨麗はきっと耐えられない。 ラベリングやカテゴライズの話である、要するに。 “日ノ原陽大”という瓶には、一つのラベルしか貼れないのだ。 “友達”、“恋人”という2枚のラベルを貼りつけることは出来ない。 どちらかを貼りたければ、どちらかを剥がさないといけない。 そして、一度貼って剥がしたラベルを、もう一度貼り直すなんてことは出来ない。 「俺、最低だよ」 そう、最低だ。雨麗は最低なのだ。 ごちゃごちゃ考えすぎて、後先のことを憂いすぎて、“今”から逃げた。 バカで最低で酷い男なのである。 日曜日、夕方、18時21分18秒。 現実逃避を重ねて、無為に一日が終わっていくのを感じながら、ベッドに寝転がってグダグダしていると、スマートフォンから通知音が鳴った。トークアプリにメッセージが届いたのだ。 “サボり魔” 送り主が誰か、そんなのは送り主の名前を視認する前にわかることだった。 こんなぶっきらぼうで乱暴で唐突な批難の言葉を送りつけてくる相手なんて、雨麗にとって一人しかいない。 日曜日、夕方、18時23分01秒。 “サボり魔サボり魔サボり魔サボり魔サボり魔サボり魔サボり魔サボり魔サボり魔サボり魔サボり魔サボり魔サボり魔サボり魔サボり魔サボり魔サボり魔サボり魔サボり魔サボり魔サボり魔サボり魔サボり魔サボり魔サボり魔サボり魔サボり魔サボり魔サボり魔サボり魔” 次に届いたメッセージがこれだった。 執念すら感じる暴言の羅列。 本人が目の前に居るわけでもないのに、胸ぐらを掴まれて罵倒されている気分である。 日曜日、夕方、18時30分11秒。 また更に、メッセージがくる。いっそしつこいと思うくらい。 “明日にはちゃんと学校来い” “もう何も言わねえから” “お前はウチのエースで、俺はキャプテンだ、それだけだ” 意地悪だけど優しい。 淡々としている文章からも、彼の人柄がにじみ出る。 好きだと思った、性懲りも無くまた思ってしまった。 「俺には勿体無いよ、陽大」 返事を打つべきか、アプリの画面を眺めながら考えた。 でも、振った側の俺に、何を言えるというんだ。 雨麗に出来ることといえば、言われるがままに了解した旨を文章にまとめて送信するくらいのものだろう。 結局、明日は彼の言うように、何事もなかったように振る舞い、学校へ行き、部活をするしかないのだ。 他にやりようがない、少なくとも、彼を振った側である雨麗には。 画面に指を置いて、いつものようにするすると指を動かして、スワイプして、言葉をしたためて、日ノ原陽大に返事を送る。 “わかった、気を使わせてごめん” “明日はちゃんと、学校行くよ” “俺ももう何も言わない” それだけで、その文章を送るだけで、この葛藤も、苦しみも、痛みも、全部終わらせることができる。 「……んなわけ、ねえじゃん」 そう、そんな都合よく出来ていないのだ、雨麗も、世界も、きっと陽大も。 「無理だ、出来ない。だって俺、まだ、お前のことが好きだ。お前と恋人になりたい。お前の恋人にしてほしい。お前を好きだと言いたい。お前に好きと言われたい。でも怖い、恋人になったら、友達じゃなくなる。友達じゃなくなって、恋人になって、何かの拍子で、恋人でも友達でもなくなっちゃったら、俺は生きていても生きていなくても変わらなくなる。何もなくなる。俺に価値なんてない。お前から愛されない俺に価値なんてない。お前に、お前、俺、こんなに好きなのに、怖いと言う気持ち一つで、お前のことを諦めることはできない。怖いよ、俺はお前が怖い、こんなに好きになってしまった、後戻りできないくらい好きになってしまった、俺をこんなにしたお前が怖い、人を好きになんて、お前を好きになんて、なりたくなかった」 雨のように涙が溢れて、枕を濡らす。 多分、俺の失恋は昨日の帰り道じゃない、今この瞬間なんだ。 取り繕う事も、諦めることもできない情けない自分に嘆くこの時間こそが、俺の失恋で、俺の受けるべき罰なんだろう。 「馬鹿だ、馬鹿だなあ、俺」 そうぼやくように言いながら、顔を拭うために、利き手をスマホから離した。 「あ?」 そう、雨麗は、顔を拭うために利き手を、布団の上に置かれたスマホから、“離した”のだ。 涙で揺れる視界のまま画面を見ると、音声メッセージが、送信されていた。 誰のって、俺が送ったんだってさ。 「あ?え?マジ?ウソ」 入力しようと思っていたところ、結局できずじまいで。 だからずっとスマホに手がかかっていて。 指が動いた拍子で、音声入力に切り替わっていたのだろう。 1分と5秒の音声メッセージが、彼に、送られてしまった。 「さ、さくじょ、消さないと、あー、もー無理だ」 今更消そうったって遅い。 相手は既読しているし、一度送った言葉を、撤回することは出来ない。 日曜日、夕方、18時59分59秒。 着信音が鳴る。怯えて布団にくるまっていたが、出ないわけにいかないのは、図らずも送ってしまった内容が内容だからだ。 もうどうしようも無い、逃げられない。 雨麗は、恐る恐る通話ボタンをタップした。 「はい、月守で」 “今すぐ外出れるか?” 「え?なに?」 “今すぐ外出ろ、河川敷に来い” 「いきなりなんだよ」 “良いから来い、お前の方が近いだろ、3分で来い、ずっと、待ってっから” 一方的にそう告げられて通話も切られた。 めちゃくちゃだ、そう、彼は時々こういうことをする。 それを拒めないのは、惚れた弱みだ、悔しいけれど。 「寝巻きから、着替えても無いのに、3分て」 というか、電話を切ってからのカウントなら、もう3分も無かったりする。 せめて着替えをしたい、適当な長袖のTシャツを着て、転がっていたジョガーパンツを履いて、上にダウンジャケットを羽織り、手袋はもういい、マフラーだけ巻こう。 あと、伸ばしっぱなしの髪はきちんと括らないといけない。 髪を下ろしていると、それだけで文句が飛んでくるのは明白だからだ。 財布とスマートフォンだけを片手に、家を飛び出た。 ここから全力で走ったって、どう頑張ったって3分かかる。 でも、これで咎められるのは不服である。 いきなり呼び出したのだ向こうが、こちらの都合をお構いなしに。 「そうだよ、あいつだって俺の都合なんか考えてくれないじゃん」 走りながらそうボヤいた。 すると、雨麗が彼のことを自分の都合で振ったことも、そんなに罪意識を感じる必要はないのでは、と思えてきた。 お互い身勝手だ、それでもお互いに想いあっている。 身勝手な雨麗が、身勝手な彼に会ったところで、今更何を言えるでもないけれど。 それでも雨麗は、条件反射的に走る脚を止められなくて、河川敷に一直線に進んでいったのだった。 日曜日、夕方、19時07分11秒。 着いた、河川敷に。 「っうえっ、げぇっ、へぇ」 ゼエハア肩で息をしている雨麗は、見た目も相俟って普通に不審者だ。 「遅ぇ!ナメてんのか!」 吠える声が河川敷の下の方から聞こえる。 「ちょっと、っ、待ってよお、急に呼び出しといて」 何が遅いだ、確かに3分では到着できなかったけれど。 「言い訳すんな!早くこっち来い!」 勝手なことばかり言う。 こちとら全力疾走の直後だぞ、頑張ったぞ俺は。 「陽大さあ、矢鱈な事ばっか言うなよ、無理だろ、どう考えても3分なんて」 いつもなら気にも留めないだろうが、今はフラフラだ。 転げ落ちないように気をつけて、傾斜を下り、陽大の横に並び立つ。 「そうだな、お前、8分もかけやがった、大遅刻だ」 「横暴だろ、8分なんて待ったうちに入らないって」 「いや、正確に言うと、25時間と8分だ」 陽大はそう言うと、豪快に音を立ててその場に倒れ込んだ。 雨麗は、真下で大の字になって寝転がった陽大に驚いたが、それ以上に、彼が示唆した時間が長すぎることに驚いた。 昨日、告白をされたのが部活の後だから、その数字に違和感はない。 あれからそれくらいの時間は経っていよう。 しかし、違和感はそこじゃない。 ずっと待たせていたのか、俺は、お前を。 何を、とは聞けない。 「おい、上見ろ」 こんな衝撃を与えておいて、次の言葉はそれか。 言われるがまま、雨麗も腰を下ろし、河川敷の斜面へと寝転がった。 本当はこんなことしたくない、ジャケットやパンツに、土と草の匂いがつくじゃないか。 「空を見ろ」 陽大はお構いなしで雨麗に支持する。 「空ぁ?」 「今日は新月だからな、星がよく見える」 気にしたこともない、星なんて。 「星座は、最初っからオリオン座だなんだって形を探そうと躍起になるより、よく光る星を基点にして探すのが一番早い。まず一番光る星を探せ。今は1月だから、デカくてよく光る星を、3つくらいは見つけられる。南の方にそう離れてない明るい星が2つあるだろ、あれが、シリウスとリゲル、その二つから目線を北、いや上の方って言った方がわかるか、目線を上に向けると、カペラが見えるな」 「名前はともかく、お前がどれを指しているのかはわかるよ」 「とりあえず、それで上等だ。南の方にある明るい星のうち、上にある方、リゲルだが、それはオリオン座の左足のつま先にあたる。リゲルの少し上に、キレーに等間隔で三つ並んだ小さい星があるだろ、あれはオリオンの腰のあたり。その上を見ると、明るい星がもう一つあるよな、それはドラマのテーマソングのタイトルにもなったから、お前でも知ってるかもな、ベテルギウスって言う星だ。ベテルギウスはオリオンの右肩。オリオン座ってのは、こう、両手をあげて、右足も上げて、戦う人のポーズ取ってんだ」 天体観測の予備知識がない雨麗のために、わかりやすくしているつもりなのだろうが。 しかし、彼がオリオン座のポーズをとっても面白いだけだ。 「あっはは、陽大、似合うなそれ」 「似合わねえよ、バカ、お前は口で説明しても伝わりにくいだろうからやってやってんのに」 「確かに、すごくよく伝わった」 「馬鹿にすんな、ヘタレ」 上げた左足で太ももを蹴られた、普通に痛い。 「いってえ……」 陽大は、雨麗にだけつっけんどんだ。 普段、後輩や大人の前では優しさや誠実さを表に出して振舞っているみたいだが、雨麗の前では荒っぽさの方が目立つ。 雨麗は暴力を振るわれるのは嫌だし、暴言を吐かれるのも嫌だし、粗雑に扱われるのも困るけれど、そういう負の面も雨麗にはたくさん見せてくれているのだと思うと、少しだけ嬉しい気持ちになった。 ちょっと痛いのなんて、すぐに許せちゃうくらい。 「お前のせいで話がそれた、オリオン座はこんなもんだろ、次は冬の空で一番光る星、シリウスとおおいぬ座、それからこいぬ座、それらを繋いだ冬の大三角形の話をしてやる、ちゃんと聞け、独活の大木」 「……ん」 陽大は語り続ける、星座のことを。 自己紹介をするように流暢に、楽しそうに。 雨麗はそれを聞きながら思う、やっぱりこの男のことが好きなんだと。 それから、烏滸がましく、図々しいが、この男にも、まだ好かれているのではないかと、勘ぐってしまう。 まるで、歌のようだ。恋の行方を、測って、占いたくなってしまう。 「こんなところだ、一般常識だがな」 「陽大の一般常識って、説明のためとはいえ、オリオン座のポーズを真似して見せてくれることなんだ」 「茶化すな!せっかく教えてやったのに!」 「だって、教えてなんて、俺頼んでねえもん!」 「うるせえ!」 一言言うたびに手が伸びてきて、足が飛んでくる。 まったく、星座を語っていたときは、あんなに言葉が達者だったのに、これじゃあ語彙力のない雨麗よりも、よっぽど肉体言語だのみじゃないか。 これでバレー部の主将なんて、人を導く立場だなんて、笑ってしまうと言いたくなるほど。 さて、怒っていた陽大が黙った。 きっと、ここからが本題だ、鈍い雨麗にだってそれくらいわかる。 雨麗は、早くも泣きたくなってきた。 「昨日、お前に振られただろ、俺。でもな、全然、あれくらいじゃ、諦められなかった。振られたっていう実感さえ湧かなかった。でも、さっきの音声聞いて、俺がそう思ったことに、1日ごしで確信がいったよ。お前が、本気で俺のことを振ったわけじゃなかったから、俺にも何にも伝わってなかったんだ」 情けないと思った。 人を振ることさえ、満足にできないのだ、自分は。 「だから、もう一度言うぞ。俺と付き合ってくれ、雨麗」 保険とか、ラベリングとか、結局のところ、そんなのは全部逃げだったと、まっすぐな彼の目線を受けながら思った。 雨麗が陽大のことを信じきれなかったから思いついたこじつけでしかなかったと、改めて己の矮小な考えを悔いた。 きっとこの先、喧嘩はするし、すれ違いもするだろう。 別れだって、何時かは訪れるかもしれない。 でも、今この瞬間において、未来というのは“これから来るかもしれない未知のもの”でしかなくて。 それに怯えているのは、単なる現実逃避でしかなくて。 目の前の現実を、目の前の相手を信じられなかったら、何も始まらないのだ。 始まる前から怖気づいて足踏みをして、そんなのは部活をサボって一日中家でゴロゴロしていることよりも、無駄で無意味なことじゃないか。 「お前のこと、信じるよ。今までもそうだったように、これからも、陽大のことを、ずっと信じるよ。だって、俺も、陽大のことが好きだから、陽大の恋人になりたいから」 勇気を出した、なんて格好いいものじゃない。 ただ、ずっと閉じ込めてきた本音が、あふれ出しただけのこと。 「そっか、じゃ、両思いだな、俺達」 陽大は、ずっと、まっすぐ雨麗を見つめていたが、緊張が緩んだみたいに少しだけ笑った。 きっと、俺も、それに釣られて少し笑っていることだろう。 「うん、そうだね、嬉しい、嬉しいよ」 涙が止まらない、星の光も陽大の顔も、世界が全部滲んで見える。 それでも、眩いほどにきらきら光って、とても綺麗だと思った。 ミラクルもロマンスも、俺は信じていない。 でも、愛した人のことは、信じられる。 今日は新月で、月なんて浮かんでいないけれど、月の代わりに、お互いの惹かれ合う心に導かれた俺達は、少しだけ遠回りをしたものの、無事ハッピーエンドに至ったのだった。
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