第七十九話 退去勧告受諾、捕虜交換

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第七十九話 退去勧告受諾、捕虜交換

--翌日。  帝国軍の宿営地にカスパニア軍とスベリエ軍の軍使が訪れ、帝国軍からの退去勧告を受け入れる旨が伝えられる。  ただし、両軍ともゴズフレズ王国からの完全撤退までに一週間程度の時間的猶予を求めていた。 『冬の積雪のため、部隊や物資の移動に時間が掛かる』との理由であった。  ニーベルンゲンの艦橋で士官から報告を受けたジークは、カスパニア軍とスベリエ軍からの完全撤退までの時間的猶予の求めに応じる。 「致し方あるまい。両軍の軍使に『帝国は一週間の猶予を認める』と伝えろ」 「了解致しました」  ジークが報告に来た士官に尋ねる。 「カスパニア軍は『捕虜交換』に応じると言っていたか?」 「カスパニアの軍使は、そう言ってました」 「・・・そうか」  そう告げるとジークは、ニーベルンゲンの艦橋の窓から地上のスベリエ軍陣地とカスパニア軍陣地を見下ろす。  カスパニア軍も、スベリエ軍も、兵士達が本国へ撤退するための荷造りを行っている様子が伺えた。  帝国四魔将達がニーベルンゲンの艦橋にやって来る。  アキックスが口を開く。 「殿下。こちらでしたか」  ジークが答える。 「ああ。・・・カスパニアも、スベリエも、帝国からの退去勧告に応じるとの事だ」  アキックスが微笑みを浮かべる。 「ほう? 左様ですか」  ヒマジンが口を開く。 「両軍とも、我が軍の威嚇飛行を見て、肝を潰したようですな。・・・我々が帝都からゴズフレズに来て、翌日早々に解決とは。・・・ちょっと手応え無さ過ぎです」      ジークは苦笑いしながら答える。 「・・・まぁ、カスパニアは、捕虜交換にも応じるようだ。無駄な血が流れなかっただけ、良かったとしよう」  ナナシが口を開く。 「エリシス。カスパニアの王太子は、口を割ったのか? 奴らは、どうやって鶏蛇(コカトリス)食人鬼(オーガ)を手に入れたのだ?」  エリシスが答える。 「・・・カスパニアは、新大陸のダークエルフと取引して鶏蛇(コカトリス)食人鬼(オーガ)を手に入れたそうよ」  ナナシが呟く。 「・・・やはり、ダークエルフか」  アキックスが呟く。 「・・・恐らく、スベリエ側もそうだろう」  ナナシが唾棄するように告げる。 「人間の国と取引して妖魔を売り渡し、人間の国同士を互いに争わせるとは。・・・狡猾な奴らだ」  ジークが口を開く。 「ゴズフレズを巡る北方の動乱は、もうすぐ終わるだろう。・・・次にダークエルフはどう動くか」  アキックス伯爵は、不敵な笑みを浮かべる。 「なぁに。新大陸からダークエルフが出張って来たなら、我々が叩き潰すまでですよ。殿下」  ジークは笑い声を漏らす。 「確かに。その通りだな」  その日の午後、カスパニア軍とバレンシュテット帝国軍の間で『捕虜交換』が執り行われた。  カスパニア軍側は、レイドリックがカスパニア全権を務め、帝国側からはジークが全権として捕虜交換に立ち会う。  カスパニアの王太子カロカロは、以前、港湾自治都市群でジカイラ達に捕まった事があり、今回、エリシス達に捕まった事で、カロカロが帝国軍の捕虜になるのは二回目であった。  カスパニア軍に捕まっていたゴズフレズの人々が、リベから帝国軍の宿営地に向かって長蛇の列で歩いて来る。  釈放されたカロカロ、イナ・トモ、アルシエ・ベルサードの三人が、帝国軍の宿営地からカスパニア軍陣地に向かって歩いていく。  帝国軍の宿営地から警戒線まで、帝国不死兵団の不死者(アンデッド)達が三人が通れるように道を空ける。  三人は、空けた道の両側に群がる不死者(アンデッド)達に戦々恐々としながら歩いて行く。  ジークと帝国四魔将達がカロカロ、イナ・トモ、アルシエ・ベルサードの三人を見送る。  エリシスが去って行く三人に愛嬌良く手を振るが、三人は無言のまま、恐怖に引きつった顔でエリシスを一瞥する。  エリシスが呟く。 「・・・これで一件、落着ね」  アキックスが答える。 「・・・だと、良いが」  アキックスの懸念は、後ほど現実のものとなる。 --夜。 スベリエ本国 王都ガムラ・スタン 王城  スベリエ王国の国王、フェルディナント・ヨハン・スベリエは、王城の謁見の間で前線指揮官であるオクセンシェルナ伯爵からの緊急の伝令が携えてきた報告書を受け取る。  羊皮紙に綴られた報告書に目を通すフェルディナント国王の顔が強張る。 (あの百戦錬磨の勇将であるオクセンシェルナ伯爵が『ゴズフレズからの撤退』を主張するとはな・・・)  王太子のアルムフェルトが顔色を伺う。 「・・・父上、如何されました?」  したり顔でフェルディナント国王が答える。 「我が国のゴズフレズ派遣軍は、バレンシュテット帝国からの退去勧告を受け入れ、ゴズフレズから無条件で撤退するとのことだ」  王太子のアルムフェルトが素っ頓狂な声で尋ねる。 「は? 我がスベリエ王国の地上軍九万は、ほぼ無傷だったのでは? 何故、無条件で撤退を??」 「前線の指揮官であるオクセンシェルナ伯爵の判断だ」 「まさか、父上。伯爵の独断での撤退を許すつもりですか?」 「もちろん、許す。・・・オクセンシェルナ伯爵は勇将だ。前線での指揮を伯爵に任せている。・・・その伯爵が帝国からの退去勧告を受け入れ、無条件で撤退する判断をしたのだ。何か、理由があるのだろう」  王太子のアルムフェルトが異議を唱える。 「・・・納得できません。これではカスパニアと戦って死んだ兵は、無駄死にではありませんか」  そう告げると、アルムフェルトは謁見の間から去って行った。  去って行くアルムフェルトの後姿を見て、フェルディナント国王は想いを巡らせる。 (・・・せめて、あの愚息に帝国の皇太子の十分の一の才覚でもあったなら・・・)  王太子のアルムフェルトは、王城から馬車で飛行場へ向かう。  飛行場に着いたアルムフェルトは、飛行場に停泊している飛行艦隊の旗艦に乗り込むと、艦長に向かって告げる。 「飛行艦隊、出撃するぞ」  驚いた艦長が聞き返す。 「殿下、どちらへ向かわれるのですか?」  アルムフェルトが告げる。 「目標は、ゴズフレズ中部の都市ブナレスだ。行くぞ!!」  スベリエ軍の飛行艦隊は、王都ガムラ・スタンの飛行場からゴズフレズ中部の都市ブナレスを目指して出撃する。
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