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第八十話 スベリエ飛行艦隊、ブナレス襲撃
スベリエ軍の飛行艦隊は、王都ガムラ・スタンの飛行場からゴズフレズ中部の都市ブナレスを目指していた。
王太子アルムフェルトが艦長に尋ねる。
「ブナレスまでどれくらい掛かる?」
「15ノット(※15knots= 27.78km/h)で、およそ八時間ほどです」
「ふむ。ブナレス到着は、明日の朝か。」
艦長が怪訝な顔で尋ねる。
「しかし、殿下。何故、急にブナレスへ向かわれるのです? 帝国軍の武力介入によって、我が軍はゴズフレズ王国から撤退を進めていると聞きましたが??」
アルムフェルトが熱く語る。
「ゴズフレズのハロルド王がブナレスに居る。スベリエを裏切ったゴズフレズを放置してはおけん。帝国軍がゴズフレズに進駐してくる前に、目にものを見せてやる!」
そう告げると、アルムフェルトは艦橋を後にし、自室へと向かう。
アルムフェルトを駆り立てていたのは『功名心』であった。
アルムフェルトは、通路を歩きながら不敵な笑みを浮かべ考えていた。
(フフフ。私がゴズフレズを凹ませて帝国のメンツを潰せば、父上も私の事を認めざるを得ないだろう)
--翌朝。 ゴズフレズ王国 中部の都市 ブナレス
ゴズフレズ王国のハロルド王とネルトン将軍は、ブナレスの市庁舎で戦後処理に当たっていた。
小国ゴズフレズ王国を巡る動乱にバレンシュテット帝国軍が武力介入し、消耗戦に陥っていたカスパニア軍とスベリエ軍は帝国軍の退去勧告を無条件で受け入れ、ゴズフレズ王国の領土から撤退しつつあった。
カスパニアは、帝国との捕虜交換に応じ、帝国側の捕虜である王太子カロカロと二人の将軍、イナ・トモとアルシエ・ベルザートの身柄と、カスパニアが奴隷貿易の原資として誘拐したゴズフレズの人々の身柄を交換した。
ハロルド王とネルトン将軍は、戦火に荒れた地域の住民への食糧の確保や、戦傷者への医療の手配などのため大忙しであった。
カスパニアのゴズフレズ侵略に始まった、後に『北方動乱』と呼ばれる戦争は、終戦に向かって処理されつつあった。
市長室でハロルド王とネルトンがそれぞれ決裁する羊皮紙の書類に目を通していると、突然、轟音が響き、市庁舎の建物が大きく揺れる。
ネルトンが口を開く。
「陛下! 御無事ですか?」
ハロルド王が尋ねる。
「これは何事だ!?」
伝令の兵士が市庁舎に駆け込んで来る。
「失礼します! 陛下! スベリエ飛行艦隊の襲撃です! 市庁舎から避難して下さい!!」
ハロルド王が聞き返す。
「敵の兵力は!?」
伝令の兵士が答える。
「大型戦闘飛行船が三十隻です」
ハロルド王は、苦虫を噛み潰したような顔をする。
「むぅ・・・」
ネルトンがハロルド王に告げる。
「陛下! ここは危険です。避難しましょう!」
ネルトンとハロルド王は、市庁舎から避難し始める。
スベリエ飛行艦隊によるブナレス襲撃は、ブナレス上空に滞空している飛行空母ユニコーン・ゼロの教導大隊も知るところとなる。
自室に居たジカイラとヒナが報告を受けて艦橋にやって来る。
艦橋に居るジカイラが士官達に指示を出す。
「教導大隊の各小隊は、各自、戦闘装備で格納庫に集合! 飛空艇で出撃してスベリエの飛行艦隊を叩く! 飛空艇の全機発艦後、ユニコーン・ゼロは高度五千まで上昇し、敵との直接戦闘を避けろ!!」
艦橋の士官が敬礼しながら答える。
「了解!」
アレク達はユニコーン・ゼロのラウンジで寛いでいた。
エルザはニンマリとした満面の笑顔で、先日、帝国造兵廠で貰った二つのアクセサリーを首に着けて、アレクのところに見せに来る。
「アレク。先日、造兵廠で貰った首輪を付けてみたんだけど、どう?」
アレクがエルザの首元を見ると、ピンクのオープンハートと小さな鈴の付いた二つの黒い首輪を付けていた。
アレクがエルザに答える。
「似合ってるよ」
アレクの答えにエルザは無邪気に喜ぶ。
「えへへ。ありがとう。カワイイでしょ?」
「うん」
アレクから首輪を褒められたエルザは、上機嫌でラウンジのカウンターでデザートを頼むと、ルイーゼ達の席に行き、おしゃべりしながらデザートを食べていた。
ラウンジで寛いでいたアレク達の元にも士官達が訪れ、ジカイラからの命令を伝えられる。
アレク達は戦闘装備を整えると、格納庫に向かう。
アルが通路を早足で歩きながら傍らのアレクに話し掛ける。
「おいおい。帝国軍の武力介入で、ゴズフレズの戦争は終わったんじゃないのかよ?」
アレクは苦笑いしながら答える。
「『まだ戦争は終わっていない』ってことだろ」
教え子達が集まった事を確認すると、ジカイラが口を開く。
「傾注せよ! オレ達、教導大隊の任務は、『スベリエ飛行艦隊の迎撃』だ! 飛空艇により敵大型戦闘飛行船を攻撃する! 小隊毎に別れ、敵大型戦闘飛行船を攻撃すること!!」
傍らのヒナが地図を掲示板に貼り出す。
ジカイラは、地図を指し示しながら説明を続ける。
「現時点で判っている事は、敵は大型戦闘飛行船が三十隻。 敵の目標は、ゴズフレズ王国のハロルド王だと思われる。 お前達の発艦後、ユニコーン・ゼロは、高度五千に上昇して戦闘空域から離脱する。尚、敵旗艦は、可能な限り拿捕しろ! 以上だ!!」
アルは興奮気味にアレクに話し掛ける。
「敵の飛行艦隊を飛空艇で襲撃するのか! 腕が鳴るぜ!!」
苦笑いしながらアレクが答える。
「まぁ、飛行船はトロいから、飛空艇から見たら『動く標的』みたいなものだろ」
エルザが二人に話し掛ける。
「楽勝ね!」
トゥルムが三人を嗜める。
「確かに飛行船と飛空艇では速度が全然違うが、油断は禁物だ。気を引き締めて掛からないとな」
ドミトリーもトゥルムに同意する。
「うむ。『追い詰められた鼠は猫を噛む』と聞く。戦力的には飛空艇のこちらが上だが、スベリエ飛行艦隊には引くべき後が無い。用心しろ」
ナディアが呟く。
「スベリエ軍の『捨て身の攻撃』ってやつかしら? 嫌ねぇ・・・」
ナタリーも口を開く。
「相手は死ぬ覚悟で立ち向かってくるって事?」
ルイーゼが答える。
「スベリエの地上軍は撤退中よ。戦争自体は、ほぼカタが付いているのに、そこまではやらないんじゃない?」
アレクが答える。
「トラキアのテロリストのように自爆攻撃は勘弁して欲しいけどな。・・・時間だ。みんな、行こう!」
アレク達は、出発時刻が近いこともあり、自分達が乗るガンシップの所に行って乗り込む。
小隊全員が飛空艇に乗り込んだ事を確認したアレクは、整備員に告げる。
「ユニコーン小隊、出撃します!!」
「了解!」
整備員は、同僚と共にアレク達が乗る四機の飛空艇をエレベーターに押して乗せると、同僚の整備員に向かって叫ぶ。
「ユニコーンが出る! エレベーターを上げろ!!」
整備員が動力を切り替えると、飛行甲板に向けてアレク達が搭乗する四機の飛空艇は、エレベーターで上昇していく。
程なく、アレク達が搭乗する四機の飛空艇は、飛行甲板に出る。
ゴズフレズ冬の寒空の冷たい風がアレクの顔を撫でる。
アレクは、伝声管でルイーゼに告げる。
「行くよ。ルイーゼ」
「うん」
「発動機始動!」
アレクは、掛け声と共にエンジンの起動ボタンを押す。
魔導発動機の音が響く。
ルイーゼが続く。
「飛行前点検、開始!」
ルイーゼは掛け声の後、スイッチを操作して機能を確認する。
「発動機、航法計器、浮遊水晶、降着装置、昇降舵、全て異常無し!」
ルイーゼからの報告を受け、アレクは浮遊水晶に魔力を加えるバルブを開く。
「ユニコーン01、離陸!」
アレクの声の後、大きな団扇を扇いだような音と共に機体が浮かび上がる。
「発進!」
アレクは、クラッチをゆっくりと繋ぎ、スロットルを開ける。
プロペラの回転数が上がり、風切り音が大きくなると、アレクとルイーゼの乗る機体ユニコーン01は、加速しながら飛行甲板の上を進む。
やがて飛行甲板の終わりまでくると、二人の乗るユニコーン01は大空へと舞い上がった。
二人の乗るユニコーン01は飛行空母の上を旋回して、小隊の仲間が離陸してくるのを待つ。
直ぐにアルとナタリーが乗るユニコーン02が飛行空母を発進し、上昇してくる。
続いて、ドミトリーとナディアが乗るユニコーン03とエルザとトゥルムが乗るユニコーン04が飛行空母から発進して上昇してくる。
四機全てが揃ったユニコーン小隊は、ブナレスの市庁舎周辺を砲撃しているスベリエ飛行艦隊を目指して、編隊を組んで向かった。
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