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第八十二話 教導大隊vsスベリエ飛行艦隊(二)
ぶどう弾の無数の小さな鉄球がアレク達の編隊を襲う。
アレクが機体を急旋回させたため、ユニコーン小隊の編隊は崩れたが、アレクとルイーゼの乗るユニコーン01は、ぶどう弾による直撃を回避出来た。
アルとナタリーの乗るユニコーン02、ナディアとドミトリーの乗るユニコーン03、トゥルムとエルザの乗るユニコーン04も、アレク達に続いて急旋回したが、ぶどう弾に被弾してしまう。
アルは、機体の左側からぶどう弾による攻撃を受け、飛空艇の操縦席で蹲る。
アルの身を案じたナタリーが悲痛な声で叫ぶ。
「アル! アル! お願い! 返事して!!」
蹲っていたアルは、上体を起こしてナタリーに答える。
「うううっ・・・。クッソォ~! 痛ッテェな!!」
ナタリーは、目に涙を浮かべながらアルに問い掛ける。
「アル! 大丈夫!? しっかりして!!」
アルは、左手でぶどう弾に被弾した自分の身体の部分を触れてみる。
胸当ての左側と鎖帷子の脇腹の部分が砕け、左の脇腹と左太腿から出血していた。
「大丈夫だよ、ナタリー。・・・離れていて、戦闘装備だったから。もし、至近距離で飛行服だったら、死んでたよ」
そう答えるアルの飛空艇の操縦席の床には、アルが被弾したぶどう弾の、血に濡れた小さな鉄球が操縦席の床に転がっていた。
機体の正面から被弾したドミトリーが呻き声をあげながら俯く。
「ぐぅっ・・・」
ナディアが尋ねる。
「ちょっと!? ドミトリー、大丈夫なの??」
ドミトリーは、俯きながら苦しそうに答える。
「ナディア、操縦を渡すぞ。・・・すまん。利き腕をやられた」
「わ、判ったわ!」
ぶどう弾が腕に当たったドミトリーは、右手に着けていた手甲は砕けて腕が折れ、破片が刺さったところから出血していた。
ナディアはドミトリーから操縦を引き継ぐと、被弾して編隊から離れた機体を編隊に戻す。
折れて出血している自分の右腕を左手で押さえながら、ドミトリーが呟く。
「まさか、戦闘の一番最初に自分が負傷して、自分で自分に治癒魔法を掛ける羽目になるとはな・・・」
機体上部から、ぶどう弾に被弾したトゥルムが咳き込む。
「カハッ! カハッ!!」
エルザがトゥルムに声を掛ける。
「トゥルム! あの弾が当たったの!?」
トゥルムは右手の親指を立ててエルザに答える。
「大丈夫だ・・・。肩と背中に一発づつ、跳弾が胸に・・・な」
ぶどう弾が当たったトゥルムの鱗鎧の左肩と背中の部分は砕け落ち、破片が刺さった左肩から出血し、跳弾が当たった胸の部分は、凹んでいた。
トゥルムを見たエルザが叫ぶ。
「それ、大丈夫って言わないでしょ! ケガしてるじゃない!?」
トゥルムは、苦痛に耐えながら作り笑いで答える。
「大丈夫だ。・・・左腕はくっついているし、体は動く。・・・だが、操縦は頼む。任せるぞ」
エルザが答える。
「判ったわ! こんな奴等、さっさとやっつけて、手当てしましょ! 行くわよ!!」
エルザはトゥルムから操縦を引き継ぐと、被弾して編隊から離れた機体を編隊に戻す。
アレク達は、スベリエ飛行艦隊機関からの、ぶどう弾による攻撃で一時的に編隊を崩したものの、スベリエ飛行艦隊から距離を取って飛空艇の編隊の隊列を組み直す。
ルイーゼは、編隊を組み直した小隊の各機の状況を見る。
被弾した三機は、それぞれ程度こそ違うものの、ぶどう弾が当たった事によってユニコーン小隊の仲間達は負傷しており、飛空艇の機体も外板が凹んだり、穴が開いていたりしていた。
ルイーゼがアレクに報告する。
「小隊の三機が被弾。アル、トゥルム、ドミトリーが負傷!」
小隊メンバーの負傷の報告を受けたアレクは、悔しさで歯軋りする。
(くそっ! 飛行船だと思って、相手をナメ過ぎたか!!)
--スベリエ飛行艦隊 旗艦ケブネカイセ 艦橋
アルムフェルトは、艦橋からアレク達がぶどう弾による砲撃に被弾し、編隊を四散させて距離を取った様子を見ていた。
アルムフェルトは嘲笑を浮かべながら、艦橋の士官達に話す。
「見ろ! 羽虫どもが逃げていくぞ! 帝国の航空部隊には、ぶどう弾による攻撃が有効だと判った! 全艦にぶどう弾で攻撃するように伝達しろ!!」
アルムフェルトから指示を受けた士官が進言する。
「しかし、殿下。帝国軍の奇襲攻撃により、我が艦隊は既に三隻が撃沈され、損害は無視できません。ゴズフレズへの制裁は、ここらが潮時では?」
アルムフェルトは、士官の進言を考える。
今回はアルムフェルトの独断での出撃であり、このまま帝国軍と交戦を続けて飛行艦隊を失うようなことがあれば、父であるフェルディナント国王から叱責される事は明白であった。
「ううむ・・・。ゴズフレズには制裁を加えた。帝国軍にも反撃した。充分だ。・・・お前の言う通り、潮時だろう。・・・退くぞ! 応戦しつつ、全艦回頭! 旗艦ケブネカイセに続け! 進路、ガムラ・スタン!!」
対空防御のため防御円陣を組んでいたスベリエ飛行艦隊は、旗艦を先頭に順に回頭し、スベリエの王都ガムラ・スタンへ向けて撤退を始めた。
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