27人が本棚に入れています
本棚に追加
第八十五話 教導大隊vsスベリエ飛行艦隊(五)
アレクとルイーゼは、スベリエの王太子アルムフェルトと取り巻きの士官達の前に歩み出る。
ルイーゼは潜伏スキルで潜むのを止め、アレクの傍らに並ぶ。
兵士達の囲みを突破して現れた二人に対して、士官達は互いに顔を見合わせると、狼狽えて後退る。
取り巻きの士官達が後退ったため、アルムフェルトがアレク達の前に現れる。
アレクがアルムフェルトに尋ねる。
「お前がスベリエ軍の指揮官か?」
アルムフェルトは、余裕たっぷりに恭しく二人に一礼すると名乗る。
「帝国騎士よ。見事な戦いぶりだ。私は、スベリエ飛行艦隊を率いるスベリエ王国 王太子 アルムフェルト・ヨハン・スベリエという」
アルムフェルトの名乗りを聞いたアレクが呟く。
「スベリエの・・・王太子!?」
アルムフェルトは、アレクの傍らに居るルイーゼを見ると、大げさな身振り手振りをしながらルイーゼを口説き始める。
「これはこれは! ゴズフレズのような僻地に貴女のような美女が居るとは! まさに『雪の中に咲く可憐な一輪の華』! 可愛らしく、愛おしい! 凍える貴女を暖めるため、是非とも貴女と一夜を共にしたい!! 私の一夜妻になりたまえ!!」
大げさな身振り手振りで猛烈に自分を口説いて来るアルムフェルトに、ルイーゼは顔を引きつらせて二三歩後退ると、アレクの腕を取って答える。
「ごめんなさい! 私は、アレクのものなの!!」
ルイーゼに申し出を断られたアルムフェルトは、 アルムフェルトは右手で両目を覆うと、大げさな素振りで語り出す。
「くっ! 即答だと!? ・・・何故に私の前に現れる美女は、ことごとく『チン●付き(※夫や彼氏がいる女性のこと)』なのであろうか! ・・・何故にアスカニアの神々は、この私に試練を与えるのか! ・・・実に嘆かわしい! 騎士の妻よりも、王太子の愛妾になる方が、貴女は幸せになれるのですよ?」
ルイーゼは、再びアルムフェルトの申し出をキッパリと断る。
「お断りします!!」
アルムフェルトは、再びルイーゼにに断わられると憤怒の表情を浮かべる。
「ならば、お前の騎士を殺して、力ずくで私の女にする!!」
そう告げると、アルムフェルトはアレクに向けて剣を抜いて構える。
アレクもアルムフェルトに向けてゾーリンゲン・ツヴァイハンダーを構えると、傍らのルイーゼに告げる。
「ルイーゼ。下がっていろ」
二人は、ルイーゼと士官達が見守る中、剣を構えて対峙する。
アルムフェルトは、仰々しい決めポーズを取るとアレクに告げる。
「勝負だ! 帝国騎士! 私が勝ったら、お前の連れ添いを頂くぞ!!」
アレクは、不敵な笑みを浮かべる。
「・・・やってみろよ?」
アルムフェルトは、構えていた剣を振り上げると、奇声をあげながら連続でアレクに斬り掛かる。
アレクは、アルムフェルトの攻撃を二度、三度と身を翻して避けながら、考える。
(・・・スベリエの王太子。殺しちゃ、マズいんだよな)
上級騎士であるアレクは、見切りスキルを持っているため、アルムフェルトの攻撃がコマ送りのようにゆっくりと動いているように見える。
アレクは、アルムフェルトの攻撃を避けながらゾーリンゲン・ツヴァイハンダーを鞘に仕舞うと、右手で拳を握り、アルムフェルトの顔面を殴り付ける。
「ぐふっ!?」
アルムフェルトは、嗚咽を漏らしながら地面に倒れる。
「ごふっ、ごふっ・・・。貴様!! よくも王太子である、この私を殴ったな!」
アルムフェルトは起き上がると、再びアレクに斬り掛かるが、また、アレクに殴り倒される。
地面に倒れたまま、アルムフェルトはアレクを見上げ睨み付ける。
「ぐぬぬぅ・・・。 キサマァ~」
アレクは、上級騎士。
アルムフェルトは、従騎士。
上級職と基本職。
彼我の実力差は圧倒的であった。
アルムフェルトは、何回か起き上がってアレクに斬り掛かるが、アルムフェルトの攻撃は一度も当たらず、アレクの右の正拳がアルムフェルトの鼻の下に炸裂すると、アルムフェルトは白目を剥いて後ろに倒れる。
士官達がどよめく。
「「殿下!」」
アレクとアルムフェルトの一騎打ちの決着が着いた頃、ルドルフ達グリフォン小隊とフレデリク達フェンリル小隊がスベリエ軍の兵士達を蹴散らして、アレクとルイーゼの元にやって来る。
グリフォン小隊とフェンリル小隊がアレクとルイーゼの元にやって来ると、士官達は白目を剥いて失神しているアルムフェルトを放置して、その場から逃げ出して行った。
ルドルフがアレクに尋ねる。
「アレク。敵の指揮官を仕留めたのか?」
アレクは微笑みながら答える。
「ああ」
ルイーゼが地面に倒れているアルムフェルトを縛り上げながら、呟く。
「アレク。・・・私は、チャラチャラした、こういう男の人って、大っ嫌い!」
アレクは、苦笑いしながら答える。
「そうなの?」
ルイーゼは、キッパリと言い切る。
「そうよ!!」
ゴズフレズ王国のハロルド王が居るブナレスを襲撃したスベリエ飛行艦隊は、教導大隊の貴族組や他の中隊の飛空艇に追われてアルムフェルトの収容を諦め、スベリエ本国を目指して撤退して行った。
バレンシュテット帝国軍教導大隊とスベリエ飛行艦隊の戦いは、帝国側の勝利に終わった。
最初のコメントを投稿しよう!