第八十七話 皇太子と王女の結婚

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第八十七話 皇太子と王女の結婚

 ゴズフレズ王国を巡ってカスパニア王国とスベリエ王国の列強二ヶ国が争っていた北方動乱が終結し、総司令官であるジークは動員令を解除。  北方動乱が終結した事を受けて、ジークとカリンの結婚式が一ヶ月後に執り行われる事となった。  通常であれば、カリンが輿入れする先であるバレンシュテット帝国での挙式であるが、今回はバレンシュテット帝国とゴズフレズ王国の結びつきを国内外に示すという政治的意向により、ゴズフレズ王国の王都ハフニアで挙式する運びとなった。  ジークにとってカリンは四人目の妃であるため、バレンシュテット帝国側からの挙式の参列者は少なく、ジークの両親である皇帝ラインハルト、皇妃ナナイ、帝国政府要職の魔法科学省長官ハリッシュ夫妻、帝国四魔将とその副官達、その他参列を希望する大貴族、政府高官といったところであった。  対して、ゴズフレズ王国側は、国王の一人娘である王女の結婚式とあって、国を挙げての慶事としてハロルド王とほぼ全ての貴族、軍幹部や政府役人など、大勢が参列する事となった。  ハロルド王たっての要望により、帝国からゴズフレズ王国に軍事顧問団として派遣されたジカイラ率いる教導大隊も結婚式に招待される。 --飛行空母 ユニコーン・ゼロ  ジカイラ達教導大隊は、北方動乱が終結したため、ブナレスから王都ハフニアの上空に移動する。  ラウンジで寛ぐアレク達の元にも、帝国の皇太子ジークフリートとゴズフレズの王女カリンの結構式に教導大隊がハロルド王から招待されたとの連絡が届く。  アルが軽口を叩く。 「皇太子殿下が四人目の妃と結婚かぁ~。人数的にはアレクと並んだな。・・・なぁ、アレク。『奥さんが四人』って、どんな感じなんだ?」    アルの軽口にアレクは回答に困る。 「待て、待て。オレは、まだ結婚してないし。『どんな感じ』って、聞かれてもなぁ・・・」  エルザが話を聞きつけて、二人の会話に混ざってくる。 「奥さんが四人居たら、きっと家の中が賑やかでしょ?」  エルザにアルが苦笑いしながら答える。 「それは、それで大変そうだな・・・」  相方のエルザが会話に加わったので、ナディアも会話に混ざってくる。 「男の側は、『今夜は誰を抱こうかな』って、感じじゃない? ・・・アレクみたいにね! エロい! エロいわ!!」  ナディアの話に、意外にもドミトリーが加わる。 「うむ。『愛と富が許す限り、妻を持つことをできる』のがバレンシュテット帝国など、アスカニア大陸の主要国の常識だ。皇太子殿下が四人目の妃を妻帯したなら、きっと後宮が必要になるだろう」  ドミトリーの言葉に、アレクは実家である皇宮を思い出す。 (後宮か・・・。皇宮の後宮なら、四人どころか千人でも女性を囲えるだろう。たしか、父上の代から使用されてなくて閉鎖され、無人区画になっていたな・・・)  皇宮を思い出してボーッとしていたアレクに、ナディアが話し掛ける。 「アレク。私は、後宮みたいなところじゃなくて、静かな森の中の『メイド付き執事付きお屋敷』にアレクの子供達と住むからね!」  ナディアにエルザが続く。 「そうよ! エルザちゃんも後宮じゃなくて、『メイド付き執事付きお屋敷』にアレクの子供達と住むから!!」  二人の言葉にアレクは苦笑いする。 「ははは・・・」  ルイーゼがアレクに告げる。 「アレク。私は、どこに住んでも良いわよ。アレクと一緒なら」 ルイーゼの答えにアレクは微笑む。 「ありがとう」 皇太子の結婚の話題でアレク達は盛り上がっていた。 --帝国軍 総旗艦 ニーベルンゲン  ジークとカリンは、ゴズフレズの王都ハフニアに向かう帝国軍総旗艦ニーベルンゲンの貴賓室に居た。  ジークは紅茶のカップを手に、貴賓室の大きな窓から眼下に広がるゴズフレズの雪景色を目を細めて眺める。 「ほぅ・・・」  厳冬の季節。  竜王山脈の北側に生い茂る針葉樹の木々の梢に積もる雪は、梢をたわませながら器用にその先端にまで積もり、風が梢を揺らす度に青白い光を反射しながら地に落ちてゆく。  立ち並ぶ樹氷を宿した木々は、陽の光を反射して幻想的な光景を作り出していた。  カリンは、両手でホットミルクの入ったカップを持ち、窓の傍で景色を眺めるジークの傍らに並ぶ。 「どうしました? ジーク様」  雪景色を眺めたまま、カリンに告げる。 「美しい雪景色だ」     カリンはジークに寄り添い、その視線の先の風景に目を運んで答える。 「ええ。とても綺麗です」  カリンは、初恋の想い人であるジークと並んで、同じ世界に暮らし、同じ景色を眺めて、同じ感覚を共有していることを確信する。 -- 一ヶ月後。結婚式、当日。  帝国竜騎兵団、帝国機甲兵団、帝国不死兵団、帝国魔界兵団、帝国海軍(ライヒス・マリーネ)の五軍の儀仗兵がハフニアの王城前に整列し、通路を挟んだ向かい側にゴズフレズ王国の儀仗兵が並ぶ。  王都の大通りには、一定間隔で誇らしげに帝国旗とゴズフレズ国旗が掲げられる。   冬の晴天の澄んだ紺碧の空のもと、ゴズフレズ王国の貴族や政府高官を乗せた多数の馬車が王城の正門を潜っていく。  近隣の友好国の大使たちも列席する。  王城が厳粛とした雰囲気の中、玉座の間でジークとカリンの結婚式が始まる。  バレンシュテット帝国側の参列者席には、ジークの両親である皇帝ラインハルト、皇妃ナナイ、帝国政府要職の魔法科学省長官ハリッシュ夫妻、帝国四魔将とその副官達、その他参列を希望する大貴族、政府高官達。そして、教導大隊を率いたジカイラとヒナを始め、アレク達各小隊も参列する。  ゴズフレズ王国側の参列者席には、ほぼ全ての貴族、軍幹部や政府役人など、大勢が参列する。  軍楽隊が演奏する中、雪の結晶を模様にした白いレースを被り、純白のウェディングドレスを纏うカリンがブーケを持ち、父親のハロルド王にエスコートされ玉座の間の中央通路をゆっくりと歩く。  花嫁姿のカリンを見た参列者の列から嘆息が漏れる。  花嫁の列は、玉座の前に立つ大司教の前まで歩みを進めると、ハロルド王がカリンの手をジークに譲る。  ジークとカリンが大司教の前に並んで立つと、結婚の宣誓が始まる。  二人は互いに結婚(マリッジ)指輪(・リング)を左手の薬指にはめると、ジークはカリンのヴェールを上げ、キスする。  大きな拍手と歓声が玉座の間に響き渡る。 「「帝国(ジーク・)万歳(ライヒ)!!」」 「「帝国(ジーク・)万歳(ライヒ)!!」」  ジークとカリンの結婚式は、滞りなく執り行われた。
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