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第九十話 アレク達の冬休み、新聞の号外<第二部完>
北方動乱が終結し、皇太子ジークとカリン王女の結婚式も終わり、ゴズフレズでの任務を終えた飛行空母ユニコーン・ゼロと帝国軍総旗艦ニーベルンゲンは、バレンシュテット帝国に帰還する。
アレク達を乗せたユニコーン・ゼロは士官学校に、ジーク達を乗せたニーベルンゲンは帝都ハーヴェルベルクに到着する。
--ジークとカリンの結婚式から一週間後。
士官学校は、冬休みに入る。
貴族組は実家に帰省して年越しする者がほとんどであったが、平民組はそこまで経済的に余裕がある者はほとんど居らず、冬休み中も寮に留まる者が多かった。
アレク達は、いつもどおり寮の食堂に集まって朝食を食べていた。
アレクが口を開く。
「みんなは帰省しないのか?」
アルが答える。
「しないよ。・・・オレは汽車に乗れば、何時でも帝都の実家に帰れるからな」
ナタリーも答える。
「私も汽車で何時でも帰れるから。アルと一緒にここに居る」
エルザも答える。
「私もここに居るわよ。二日くらい掛けて獣人荒野の村に帰ったところで、向こうなんて何も無いから。それに、寮に居る方が快適だし」
ナディアも答える。
「私も。帰るなんて。・・・帝国北東部にあるエルフの森は、メオス王国との国境付近よ。冬の雪道で五日以上掛かるから」
トゥルムも答える。
「私もここに居るぞ。私の村は、北西部の港湾自治都市群の近くだが、冬は、より南方に位置するここのほうが暖かいからな」
ドミトリーも答える。
「拙僧もここに残る。拙僧の生まれたドワーフの村は、ナディアの実家のあるエルフの森の近くだ。五日以上掛かる」
皆の答えを聞いたアレクが呟く。
「なんだ。みんな、帰らないでここに居るのか」
トゥルムがアレクに尋ねる。
「隊長とルイーゼは、帰省しないのか?」
実家に帰れないアレクは、苦笑いしながら答える。
「まぁね」
ルイーゼも答える。
「私も。アレクと一緒」
エルザが口を開く。
「みんな、ここに残るなら、帝都で御馳走を買ってきてパーティーしようよ! せっかくの年越しなんだし!!」
エルザの案にナディアが賛同する。
「良いわね! パーッとやりましょう!!」
トゥルムも賛同する。
「うむ! せっかくの新年だ。酒のつまみにする新鮮な魚を帝都で仕入れてくるとしよう!!」
ドミトリーも同様であった。
「拙僧も骨付き肉を仕入れてこよう」
アルが呟く。
「まぁ、食い物なら補給処で買えるんだが、『御馳走』とは言い難いしな」
ナタリーも口を開く。
「良いじゃない! みんなで帝都に買い出しに行きましょ!!」
ルイーゼが口を開く。
「アレク! 私達も買い出しに行きましょう!!」
ルイーゼからの提案をアレクは快諾する。
「そうだな。皆で行こう」
アレク達は、寮から士官学校の敷地内にある駅へ行き、そこから鉄道で帝都ハーヴェルベルクへ向かった。
帝都の駅に着いたアレクは、馬車を二台借り、小隊の仲間たちと商店街へと向かう。
帝都の商店街は、年越しの買い出し客で大賑わいであった。
ルイーゼたち女の子四人がパンや肉、魚、野菜、果物、酒などを品定めして買い込み、アレクとアルが荷物持ちで店から馬車へと運ぶ。
トゥルムとドミトリーは、馬車で荷物番であった。
アレクは、店でルイーゼが買った品物が入った袋を抱え、馬車に向かって人混みを掻き分けながら呟く。
「凄い人混みだな!」
アルも同様にナタリーが買った品物が入った袋を抱え、アレクの隣を歩いていた。
「混雑し過ぎだろ!!」
たくさんの荷物を抱えながら馬車までたどり着いた二人を見て、トゥルムが笑う。
「ははは。二人とも、迷子になるなよ?」
女の子達四人がアレクとアルの後ろに続いて歩いて来る。
両手いっぱいに荷物を抱えているアルの頭を、エルザは買って来たネギでペシペシ叩きながら呟く。
「ホ~ラ! 文句言わないで、チャッチャと運ぶ! 男の子でしょ!!」
「へいへい」
エルザとアルのやり取りを見ていた小隊仲間達が笑う。
アレクとアルが抱えていた荷物を馬車に置くと、聞き覚えのある声で呼ばれる。
「お!? なんだ。お前達も帝都に来ていたのか?」
アレク達が声のした方を見ると、人混みの中から私服姿で腕を組んで並んで歩くジカイラとヒナが現れる。
アレクが二人に尋ねる。
「ジカイラ大佐!? それにヒナ少佐も? 帝都に来ていらしたんですか??」
ジカイラは、軽く握った右手の親指で傍らのヒナを指差しながら答える。
「久しぶりの休みなんでな。ヒナと二人でメシ食って、買い物して、ってところだ」
ジカイラの答えを聞いたナディアが口を開く。
「素敵ですね。結婚して子供が産まれてからも、夫婦二人でデートなんて」
ジカイラは照れ臭そうに答える。
「お、おぅ。まぁな」
エルザが二人に尋ねる。
「けど、よくこの人混みで私達が判りましたね?」
ヒナが答える。
「すぐ判ったわよ。トゥルムもドミトリーも目立つから」
ヒナの言葉でその場に居る者達が、馬車の御者席に居るトゥルムとドミトリーを見る。
アレクが苦笑いしながら答える。
「まぁ、・・・馬車に乗っている蜥蜴人と、スキンヘッドのドワーフの組み合わせは、確かに目立ちますね」
ヒナが続ける。
「みんなは、帝都で買い物?」
ナタリーが答える。
「はい。小隊のみんなで寮で年越しパーティーやるんで、その材料の買い出しです」
ナタリーの答えを聞いたヒナが笑顔で話す。
「みんな、楽しそうね」
ルイーゼも笑顔で答える。
「はい」
ジカイラが口を開く。
「お前達。休みだからって、あんまり羽目を外すなよ?」
アルが答える。
「大・丈・夫!!」
アレク達とジカイラ夫婦が話していると、空からチラホラと雪が舞ってくる。
「雪が降ってきたね」
そう言うナタリーは、アルが着ている帝国軍の冬用コートの懐の中にすっぽりと入り、首だけ出していた。
首にマフラーを巻いて帝国軍の冬用コートを着込んだエルザが、両手で自分の二の腕を擦りながら口を開く。
「ナタリー、暖かそうね~。うううぅ・・・。さぶいよ~。さぶいよ~。アレクゥ~、私を暖めてよぉ~。早く暖いベッドの中に行こうよ~」
アルがエルザにツッコミを入れる。
「お前、ネコ科だから寒さに弱いのか」
エルザがアルに反論する。
「私は、南方出身なの! アルと違って、デリケートなの! 寒いのは嫌いなの!!」
二人のやり取りを見て、小隊の仲間達が笑う。
ナディアが目を細めながら空を見上げて呟く。
「みんな、見て。・・・雪よ」
冬の曇空から白い雪がちらほらと舞ってくる。
ジカイラも口を開く。
「まぁ、帝都じゃ雪が降っても、そんなに積もらないからな」
音も無く静かに舞い散る雪を、両手を広げ手のひらに受けながら、ルイーゼが口を開く。
「雪ね」
ルイーゼの姿を見て、アレクも空を見上げる。
「雪だ」
アルも空を見上げて呟く。
「ホントだ。雪だ」
アルの懐に入ったまま、ナタリーも空を見上げて呟く。
「綺麗・・・」
ユニコーン小隊一同は空を見上げ、舞い散る雪を眺める。
冬の曇空から舞い散る白い雪は、音も無く降り続く。
アレク達とジカイラ夫婦の脇を、新聞売りの少年が大声で叫びながら小走りで走っていく。
「号外だよー! 号外! 号外!!」
「・・・号外?」
ジカイラは、怪訝な顔で新聞売りの少年を呼び止めると、版画で刷られた羊皮紙の新聞を一部買う。
「まいどー」
ジカイラに一部手渡すと、料金を受け取った新聞売りの少年は足早に去って行った。
手にした新聞の記事に目を通すジカイラの顔が強張る。
ジカイラの表情から、アレク達も新聞の記事に興味を持つ。
アレクが尋ねる。
「『号外』って。何かあったんですか?」
ジカイラは、無言で手にしている新聞をアレクに渡す。
ジカイラから新聞を手渡されたアレクを中心にユニコーン小隊の仲間達がアレクを取り囲んで新聞の記事を見る。
アレクは、新聞に書かれている記事を読み上げる。
「本日未明、カスパニア王国がスベリエ王国に宣戦を布告。これに対してスベリエ王国を中心とする『北部同盟』諸国は、相互防衛条約に基づきカスパニア王国へ宣戦布告し、動員令を発令。カスパニア王国などの『西方協商』諸国も宣戦布告し動員令を発令・・・」
アレクが読み上げる記事を聞いたアルが口を開く。
「はぁ!? カスパニアも、スベリエも、帝国の仲介でゴズフレズ王国から撤兵しただろ? 戦争は終わったんじゃないのか??」
トゥルムが口を開く。
「そう言えば、スベリエがカスパニアに宣戦布告したが、列強である両国が和平を結んだとは聞いて無いな・・・」
ドミトリーも呟く。
「ふむ。カスパニアとスベリエは、ゴズフレズから撤兵はしたが、両国の戦争は続いていたのか」
ルイーゼが疑問を口にする。
「『北部同盟』と『西方協商』が動員令・・・?」
ナディアがルイーゼに解説する。
「スベリエと、その同盟国が集まりが『北部同盟』。カスパニアと、その同盟国の集まりが『西方協商』。・・・列強諸国が二つの陣営に別れ、互いに宣戦布告して、それぞれ軍隊を動員したって事よ」
ナディアの解説を聞いたアレクは、答えを求めるようにジカイラの顔を見ながら尋ねる。
「それって・・・、まさか・・・!?」
ジカイラは、不敵な笑みを浮かべてアレク達に告げる。
「その『まさか』だ。・・・始まったのさ」
ジカイラの言葉を聞いたエルザがアレクに尋ねる。
「・・・始まったって? 何が??」
深刻な顔でアレクが答える。
「『世界大戦』だ」
ジカイラが手にした新聞の号外は、世界大戦の勃発を知らせるものであった。
再び大きな戦乱がアスカニア大陸に広がろうとしていた。
(アスカニア大陸戦記 ユニコーンの息子達Ⅲ 世界大戦 へ続きます)
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