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僕、苑田 光流は小学5年生。ものすごくショックなことがあって学校を1週間休んでいる。自分で言うのもなんだけど僕は明るくて、勉強も運動も得意で人気もある。親を困らせたことも今までなかった。けれど……理由すら言えないでいる。僕は膝の上に顔を落とす。
『普段の姿で人助けできないくせに、ヒーロー気取ってんじゃないわよ!』
あの夜の叫び声が未だ耳を離れない。あの子、泣いていた。なんで気付かなかったんだろう。そりゃ髪や目の色とか変わっていたけれど、それ以外はまんまあの子だったのに。
『助けてほしかった! 大丈夫? って聞いてほしかった! 私はそれだけできっと救われたのに……嫌い、大嫌い、ヒーローの中であんたが一番嫌いよ‼』
激しい言葉に凍り付いている僕は容赦ない攻撃をもろに喰らって気を失って、ヒーロー仲間の前で元の……子どもの姿に戻った。そう、僕はヒーローに変身すると大人の姿に変わる。実際は小学5年生なのに。ばらばらに集まった仲間だったから隠していた。だって、子どもが悪い奴らと戦うなんて危ないからって止められると思ったから。
また涙が出てきた。情けなくて、みっともなくて、消えてしまいたい気持ちでいっぱいだ。もうヒーロー仲間にも会えないかもしれない。
コンコン。部屋の戸がノックされて僕はびくりと身を竦めた。様子を窺うような抑えた声。母さんだ。
「光流? 起きている? あの……お客さまなの」
僕は毛布をかぶって息を潜めた。悪いとは思っているけれど、こうして黙っていれば諦めて戻ってくれるはずだ。学校の先生でも来たんだろうか?
「高校生のお友達なんて、いたのね……?」
相手のことを疑っているような響きと、高校生という言葉に僕は思わず毛布を投げ捨てて戸を開けていた。
「シーナ!?」
「よっ、グリーン」
怪訝な顔をしている母さんにシーナはあっけらかんと笑って、嘘と真を織り交ぜた説明を話し出した。
「ああ、すいません。僕らヒーロー仲間で。恥ずかしながらこの歳でもヒーロー大好きなんですよー。光流くんも好きですよね! たまたまアクロバティックなことしていたら声かけてくれて、類は友を呼ぶって言うんですかね。大人や女子高生も加わってヒーロー談義を楽しんでいるんです。最近、光流くんが来ないからみんな心配してて、そうしたら学校休んでるってことを教えてくれた子がいて、いてもたってもいられずに押しかけちゃったんですー」
「あ……ああ、そう、なの? わざわざすいません。あの、」
「あつかましいと思いますけど、お見舞いということで少し光流
くんと話していっていいですか?」
「もちろん。そうだ、ジュース持ってくるわね! お菓子も!」
すっかり勢いに押されていた母さんは、久しぶりに出てきた息子を改めて見てシーナが救い主だと認定した途端愛想が良くなっていそいそと準備しに行った。あとに残された僕といえば、一気に気まずくてうつむいてしまう。と、その体がひょいと浮いた。シーナが抱き上げて目が合うようにしたのだ。
「ちゃんと食わないとちび確定になるぞ?」
「!」
さり気なくコンプレックスを刺激された。そう、背が僕は少し低い。学校でも前から2番目。先頭よりマシとかは言わないでほしい。格好良いけど小さくて可愛いと言われるのは男のプライドが許さない。
「まぁ、しっかり食って寝れば? 格好良いのは約束されているようなもんじゃん? 変身が数年後の姿とすれば」
「……怒ってないの?」
「将来有望だから今から口説こうかと行っているやつもいるぞ」
「はっ!?」
「あとは、心配して怒っているのはいるぞ。俺もな」
一人称を俺に戻してシーナが拗ねたような顔して目を逸らす。
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