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「なー、好きな子なの?」
あまりにもさらりと言われたせいで反応が遅れた。数拍おいてボッと顔が真っ赤になるのがわかった。それを見たシーナがけらけらと楽しそうに笑う。シーナの黒髪に気まぐれに染める雷のように黄色い何本かの筋をにらんであり得ないと叫ぶ。だって、
「彼女は敵じゃないですか! 倒さなきゃいけない相手で……」
好きになんてなっちゃいけないはずで。
「マユ、だっけ。あの子、泣いていたよな。なぁ、グリーン。本当に敵だと思っているならお前こんなに閉じこもってないだろ」
「!」
「何が刺さったんだ? お前の心に」
シーナは軽い口調だけど絶対茶化さない。僕もここまで来てくれたシーナに嘘をつきたくなかった。
「ヒーローがずっと小さい頃から好きなんだ。それで、悪い奴がいるなら倒したいって、ほんと、そんな気持ちでなれちゃって。しかも、大人になれて。僕、格好良いって自分でも思ってて」
「そりゃそうだろ。ヒーローは格好良い」
「でも、彼らに会って……だんだんわかんなくなってきて」
「あいつら、なんだかんだ言っても優しいよな」
「そうだよ! 動物庇うし! お花も守るし! 悪者のくせにって思うんだよ!」
「倒すのが正しいのかわからなくなった、か?」
ああ、シーナもそうなんだ。同じように悩んでいるんだ。僕はこくりと頷いた。そんな自分がヒーローを続けていていいのか。そんな風に悩んでいた矢先の出来事だった。
「……マユ、ちゃん。僕と同じクラスの女の子だと思う。優しいんだ、でも、いじめられてて……僕は、人気者の自分がいじめられるようになるのは嫌だって思いながらもどうにかしたいと思ってた、そのくせ告げ口したって言われたくなくて…………見ないふりをした」
「……そんなもんだよ。誰だって、自分を守りたい」
「そんなのヒーロー失格じゃん‼ マユちゃんの言う通りだよ! 大人の姿でいいことしたって、子どもの僕はできていないなんて! ……最低だよ、最低……マユちゃんが悪者になったのは、僕のせいかもしれない」
そう、それこそが僕に刺さった罪の意識。また泣きそうな自分を恥じて拳を握り締めてうつむいた。シーナはマイペースに床の寝転がって黙って天井を眺めている。
「マユがあんだけ怒ったのは本当にお前に助けてほしかったからだろうな」
「だから、助けられなかったって後悔してるよ!」
「それ、もう遅いの?」
「え?」
「ある意味運命じゃないか。ヒーローと悪者で会えたんだ。止めてやればいいじゃん。ヒーローのお仕事、だろ?」
「今からでも、助けられる…………?」
「好きな子泣かせたままでいいのかよ?」
頭の中に浮かんだのは泣いていた彼女とお花の世話をして微笑んでいた学校の彼女。不意に仲間からのテレパシーが響いた。彼らが動いた。僕は涙を拭いて勢い良く立ち上がり、片手を振り上げた。
「変身!」
体がぐわっと熱くなって鈍い痛みと共に腕が、足が伸びていく。顔の4分の3が隠れる金色の仮面。攻撃を弾く布でできた白が基調のスーツに緑のライン。大学生くらいの姿になった僕はシーナよりも少しだけ背が高い。
「僕はヒーローグリーン。泣いている人が泣き止むことを願うヒーローだ。マユちゃんを今度こそ助ける‼」
とおっと2階の窓を開け放ち、僕は飛び出した。迷わずに飛ぶ。仲間の元へ。助けたい人のところへ。
「グリーン‼ え、ちょっとどうやって誤魔化せばいいんだ⁉ 復活したのはいいけど、おーい!?」
きっと、明るく優しい噓も上手いヒーローイエローのシーナなら大丈夫だよ。そう母さんへの説明を丸投げして僕は飛ぶ。
どこまでも青い空の下、心は晴れやかに揺るがない。今日も誰かの笑顔を見るためにヒーロー、復活‼
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