プロローグ

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 校庭脇の銀杏(いちょう)並木では、油蝉の合唱コンが行われているというのに、エアコンの効いた教室は快適で、眠気すら誘われていた。  大学受験真っ只中にいる雪ノ下(ゆきのした)絵茉(えま)は、口を開かないように欠伸(あくび)を堪えた。  腕を下げた状態で伸びをすると、また小さな欠伸が押し寄せてきた。 「今から、進路希望の用紙を配るから、来週までに書いてくるように」  束の用紙を扇子状に馴染ませる担任は、前列の席の生徒に小分けを渡していく。  鳩が豆鉄砲を食ったような顔で、絵茉(えま)は隣の席の上条(かみじょう)紗愛(さな)に話し掛けた。
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