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「なんで俺たちだけ駄目なんだろうな。アヤネとサクラコ、ツバサにハクロウ、ミネカにコウヤ……、世界にはいくらでも番がいるのにさ」
アオは指折り数えて、知り合いの顔を思い浮かべた。
カンナギは微笑を浮かべている。名前に聞き覚えがないから、反応がしづらいのだ。カンナギは生まれてからほとんどの日々をこの屋敷で過ごしていたから、アオのように町の知り合いはいない。
なんでだ、とぶすりとした顔で繰り返すアオに、カンナギは言った。
「そんなの、僕がカンナギだからに決まっているよ。カンナギは人に非ず。みんなみたいに自由に生きることは許されていない」
「馬鹿みたいな話だな。カンナギだって、人なのに」
「そんなこと言ってくれるのは、アオだけだよ」
寂しそうに、しかし嬉しそうに笑うカンナギは、そこらにいる人間よりもよほど美しい。ただの人間と言いたくないのは、なんとなくアオにも分かる雅な雰囲気が、カンナギにはあった。
「カンナギ」は、彼個人を指すための言葉ではない。いわば役職名だ。「巫」と書くらしい。主に仕え、主のために生きる、主の所有物。それはただの人間が触れてはならぬもの。主に並ぶもの。崇拝されるべきもの。
カンナギは人に非ず。
アオも幼い頃から、長老たちに言い聞かせられてきた。
しかしアオの知るカンナギは、アオと同じ世界を生きる、誰よりも無垢な人でしかない。
「カンナギに好い男ができた程度で、世界を閉じるなんて、主は大層心が狭い」
たぷん、と嵩を増した水が、屋敷に侵入した。
カンナギの緋色の袴が水を吸って、どす黒い色に染まる。
「一度穢れた世界は、すべて洗い流してしまおう。なんて、主くらいしか考えつかないことだよな」
アオは濡れるのも構わず、どすんと座りこんだ。
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