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「……ひっく」  しゃくりあげながら、オレンジ色のラグの上で、私は今日もスマホで検索を始める。  今夜は「アキロス」で。  自虐的だ。もっと泣けてくるのがわかってるのに。 『辛すぎ』 『終わった』 『まあアキ君も、そういう年齢だよねー』  悲鳴、怒り、諦め。わずかに、祝福する声も。  ネットでみつけたそれらすべてに滲み出ている、寂しい気持ち。 (野村さんも、今、こんな感じなのかな)  アキロスで休むと宣言したという、パートの野村さん。  ああでも、仕事は休んでも、主婦だとどっぷり浸ってはいられないか。お子さんもいるし、家事とかあるんだろうな。  SNSでつぶやいているたくさんの人たちも、内心はどうあれ、傍目にはいつも通りに見えているのかもしれない。仕事や学校を、なんとか普通にこなして。……私みたいに。  以前、野村さんの待ち受け画面を偶然目にしたことがある。  アキ君の写真だった。スマホに付けられたストラップも、ネバエバのツアーのグッズで。  すごくびっくりした。推しがかぶったこと以上に、そんな、職場の人に見られるようなところでアイドルの写真やグッズを使ってることに。  大胆っていうか、きっぱりしてるっていうか。  私には、絶対無理。  私のアキ君やネバエバへの気持ちが、野村さんより薄いとは思わない。  むしろその逆。ガチすぎて、そう簡単に人には言えないから。  もしも鳴本さんみたいな人に、「へー、ファンなんだー」とか面白半分に食いつかれて勝手なこと言われたら、マジ切れするかもしれないから。たとえ職場でも。  われながらキモい。いい年して、アイドルにこの熱量。リアルの彼氏もいるのに。  ……でも。誰がなんと言おうと、私にとってアキ君は恩人だから。  スマホを握る手に、力が入った。
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