Prisoner Of Love

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「ただいま…うわっ!いたの?」 電気を着けられ、ほろ酔いの行雄がリビングにいた 「電気くらいつけなよ 何やってたの?」 あの後 行雄が帰ってくるまで、私はずっとリビングでぼーとしていた 無言で行雄を眺める 行雄には女の影 「ねえ、聞いてるの?」 「別に、おやすみなさい」 「え…」 背後から行雄の声が聞こえてきたが、無視して寝室に閉じこもり、ベッドに入って目を閉じた どれくらい経ったのだろう ふと、目を覚ましたらまだ夜中だった 隣に目をやると、行雄が普通に横で寝ている 幸せそうな、寝顔 私知ってるのよ あなたが、隠れて女を作ってるの あなたが持っているカバン そこにはみ出てた紙、見ちゃったんだもの くしゃっと折られた紙には、横浜のリゾートホテルの領収書 利用人数は二人 私じゃない、誰かとの痕跡 私とは、今まで 付き合ってから一度しか旅行に行ってないのに この女とはあっさり行くのね ホテルだって あなたと付き合ってた時は、安いラブホテルばっかりだったのに… 収入印紙が貼られた紙 あなたが払ったんでしょ? 私との旅行は、私が全額出したのにね 『ああ、ごめん…連絡忘れてた 仕事が立て込んでて、仕事場に泊ってた』 …嘘つき ねぇ、どうして…? 三年でそんなに変わっちゃうの? あなたの服を洗濯する度に、ホテルの女と、幾度となく重なったであろう幻影が見えた ねぇ、この服を着て何処に出かけたの? この服を脱ぎ捨て、どんな快楽に溺れたの? 女にどんな鳴き声を吐かせたの? 汚なくて、いやらしくて、醜い感情がとめどなく溢れる 素知らぬ振りで、私の隣で寝るあなた それを見下ろす私 知ってるんだから あなたが何をやってるかなんて 私が気付いてないとでも思ってんの? あなたと同じように 知らない振りしてあげてるだけなのよ… さよならは言わない あなたを、地獄の果てまで追い詰めるまで 女狐を捕まえるまでは、まだ 女の情は深いのよ 情念は特に、ね 朝、行雄を笑顔で見送った私は、さっそく手袋をはめてゴミ箱を漁った 昨日、行雄がカバンからくしゃくしゃの紙の束を無造作に捨てたのを、見逃さなかったのだ 奥から束を取り出し、一枚一枚皺を広げていく タクシーの領収書 コンビニの領収書 行雄はお小遣い制でない 自分の稼ぎは自分で使っている その中から家にお金を入れているんだ タクシーの日付と、帰宅時間、料金を照らし合わせる 合わない 新宿から世田谷の自宅まで、1200円では帰ってこれない ワンメーターもある 明らかに、会社の新宿から自宅に帰るまでに、何処かに寄っている しわしわのレシートをまた一枚、また一枚と、丁寧に広げていく そこで、とある新宿のコンビニが頻繁に利用されていることに気付いた このゴミの中でも、もう四枚も同じコンビニ どれも深夜帯の時間 住所は、新宿六丁目交差点 青と白と緑の、コンビニ 寝室のパソコンを起動させる 検索窓を開き、マップで住所検索をした 新宿六丁目交差点…コンビニ 地図にオレンジのピンがつく そこから周辺を拡大して見ていった あ ホテル ホテル 地図の上 東新宿方面にかけて、そこはホテルが並ぶ、ラブホ街 もう一度レシートをまじまじ見た 買っているものは食事ばかりだが、思えば、一人で食べるには少し量を買いすぎている気がする よく食べる人だが、一食でこんなに食べるだろうか 分けて食べるにしても、一気に買うものかな それに 「また、これ…」 同じ住所のレシートで二回見かけたが、他の住所のレシートでも見かけた商品 縦長のカップに入った、グレープフルーツ味の甘い氷菓子を、よく買っているのだ 行雄がこの氷菓子を食べているところを、私は見たことがない ふっ どうやら女狐は、この甘い氷菓子が大好きなようだね 束になったレシートをぐしゃっと握り潰した 女狐も このぐしゃぐしゃのレシートのように、潰せたらいいのに…
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