Prisoner Of Love

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その日を境に、私は行雄のカバンを漁り、証拠探しすることが日課になった 悠長にシャワーを浴びる行雄を尻目に、躊躇いもなくカバンに手を突っ込み、中を漁る 私がカバンを漁ってるとは知らずに、ねえ? 西武新宿にある、駅直結ホテル また収入印紙の貼られた紙 利用人数は二人 やけに膨らんだ財布 私はそれにも手を伸ばした 二つ折りの、真紅のブランドの長財布 私が彼の誕生日に送ったのだ カード類を入れてあるところからはみ出した、可愛らしい花柄の紙 綺麗に折りたたまれ、大事そうにしまってあるその紙を開く 手紙だった ゆきくんへ 可愛らしいそれは女の子の字で、内容は仕事の話が書いてあり、最後の方は彼女が自宅で飼っているらしい猫の話題で終わっていた 爪の先が冷たい 心臓がバクバクして、正直、まじまじ手紙の内容をみれなかった ただ流し見しながら、これは現実なんだなと、やけに冷静な自分がいた ゆきくん、だってさ あだ名で呼ばれてるのね 灰皿にそっと、手紙を置いた ロックバンドに人気な、イギリスのブランドの細長いライターで、それに火をつける 火が一気に上がると、手紙がゆっくり燃えて 全て灰になり、灰皿に入っていた吸殻と一緒になって、手紙は跡形もなく消えた あなたが彼女と作っていく大切な思い出 私が跡形もなく消し去ってあげる 許せないのよ あなたが 愛しているからこそ、憎たらしくて仕方ない 手紙が入っていた所に厚紙の様な紙があった 指で引っ張ると引っ掛かり、うまく抜けない が、少し顔を出したそれは厚紙でなく写真で、行雄の随分加工された顔がひょっこり見えた プリクラだ 私は直ぐに女狐と撮ったプリクラだと思った これも、燃やしてしまいたい 跡形も無く、消し去りたい 彼女との思い出を、なくしたい もっと引っ張れば、女狐の顔がわかる 指に力を込めた ガタッ お風呂の扉が開く音がして、私は咄嗟にそのプリクラを財布に押し込んで、無造作にカバンに放り投げる 「何やってんの?」 「え?何が…?」 「いや、そんなとこで突っ立って」 「あ、ああ、今日の夕飯…何にしようか考えてた…」 ふうん、と彼はいうと、三人掛けのソファにゆったり腰掛け、テレビをつけた 「ビールとってくれる?」 「はい」 キッチンに向かいながらカバンをチラリと見る もう少しだったのに… 翌日も、彼がお風呂に入ってる最中に、カバンを漁った 昨日の財布 途中で見れなかったあの、厚紙 今日は…見てやるんだ… 私はまた財布を手に持って、カード類のところに指を入れた 厚紙はある その厚紙をゆっくり引き抜く ついに 女狐の顔を… 「あっ…」 私は息を呑んだ 声が出なくなった だって、そこに写っていたのは… 私 行雄と腕を組みながら、笑顔の私 忘れかけていた思い出が蘇る 付き合い初めの頃、行雄とゲームセンターに行って、プリクラを一緒に撮ったんだ なんで… なんで、まだ持ってるの…? どうして…? ねえ、どうして…私とのプリクラを持ってるのに… 浮気するの…? 胸が締め付けられて痛い… 苦しい… あの頃は… この時は… こんなに幸せだったのに… なんで… なんでこうなってしまったの…? 私はそっと、財布にそのプリクラを戻して、カバンに仕舞った 何やってるの…私… 何でこんな事…してるんだろう… 女狐の正体を暴く為に 彼の浮気の証拠を集めて その先には その先には一体、何があるというのだろう… 浮気の証拠を突きつけ 女狐を突き止め その先は…? その先は、決して明るい未来ではない 希望はない あるのは、絶望だけ
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