Prisoner Of Love

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私は結婚と同時に職場を所謂、寿退社した そして上京し 夫である行雄(ゆきお)の生活費で、今は気ままな専業主婦を送っている 何不自由しない、生活 住まいは世田谷 広いバルコニーには、行雄が買ってくれたアイアンプランターにミニバラの蔦が絡まっている 水をまくと、薔薇の芳醇な香りが漂ってきた その蔦をなぞる 「いた…」 指からぷっくりと血が出て それはやがて 指を伝って 木製のタイルを敷き詰めた地面に、小さな赤いシミを作った 真っ赤な鮮血 「刺さっちゃった…」 薬指を咄嗟にチロリと舐めた 絆創膏を引き出しから取り出して、傷口に貼りつける さて 今日は天気がいいから、バルコニーで朝食でも取ろうかな こないだ、友人にもらったローズヒップティーに、フレンチトーストもいいな そうだ、イチゴもあるし、ジャムでも作ってソースにしよう でも朝から高カロリーだと太っちゃうかなあ 最近結婚前と比べて太ってきちゃったし… そんなことを思案しながら、自分と行雄の朝食を準備した ミキサーで野菜ジュースを作っていると、行雄が起きてくる 「行雄、おはよう」 「おはよう」 「今日はお天気もいいから、少し外で食べない?」 「いや、今日は朝から会議で忙しいんだ、コーヒーだけ頼むよ」 「…そう」 せっかくバルコニーのテーブルに用意していた朝食を引っ込めて、コーヒーを淹れた 行雄は、用意したコーヒーを一口だけ啜ると、じゃあもう行くね、と玄関に向かう 行雄のビジネスカバンを持って、私も見送りに向かった 「今日も帰り遅いの…?」 「…そうだな…取り引き先との接待があるから… でもちゃんと帰りは連絡するから、ご飯頼むよ」 「…忙しいんだね」 私はつい嫌味を言った 「ここ最近、帰りも遅いし…」 「そんなこと、言うなよ 俺は奈津美(なつみ)を幸せにしてやるために働いてるんだ 最後はここに帰って来てる、それだけじゃ不満か?」 そうじゃない そうじゃないけど… 「いい子に、俺たちの家を守ってくれよ、お嫁さん」 それだけ言って行雄は私の肩に手を置くと、日課になっている行ってきますのキスをした いつもより、渇いた唇 眉間にシワを寄せながら口元は笑顔を作って、いってらっしゃいあなた、と見送った 行雄の背中を見えなくなるまで見送り、鍵を閉めてため息をつく 東京の閑静な住宅街に住めて、彼の稼ぎで何不自由しない生活を送れている 何でもあって、幸せな暮らしをしているんだけど 私だけをずっと見ていてほしくて… でもそんなこと、贅沢な悩みなのかな だって、外にいる夫婦やカップルは…幸せそうだから… 結婚して三年も経つと、こんな感じになるのかな…? 急に食欲の無くなった朝食に、手を付けずに片付けた 絆創膏を貼った手に水が入って、傷口が痛む ズキンズキン、て 私は掃除機をかけながら、久しぶりにあや子(あやこ)に会いたいと思っていた もう三年は会っていない 結婚式以来だろうか その間、メッセージのやりとりはたまにしていたが、直接は話してない 一通り家事を済ませて、軽く化粧をした私は自宅を出る 「綺麗な髪ですよね」 色素が薄く、光に当たると金色に見える、腰までの長い髪 表参道の美容室でトリートメントと、頭皮マッサージをしてもらっている間 あや子からメッセージが来た あや子:仕事終わりでよければ時間あるよ 表参道を出た足で、私は新宿に出かけた 黄昏時の新宿 東口ライオンの前で待ち合わせして、久しぶりに彼女と再会する 「奈津美、久しぶり」 「あや子…久しぶり… なんか…大人っぽくなったね」 あや子はシンプルな…オフィスカジュアルっぽい服を着て、三年前より垢抜けて見えた 品よく、色っぽいストレートのボブヘアーの黒髪をなびかせ、奥二重の瞳は涼しそうに私を見る
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