Prisoner Of Love

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行雄からはまだ連絡がないが、そろそろ帰宅しようと駅の方に足をむけた その時 「行雄…?」 数メートル先、行雄が歩いているのを偶然見かけた こんな街中ですごい確率だ 仕事帰りだろう、私は嬉しくなって一緒に帰ろうと歩みを進めようとした しかし 行雄の隣には女の人がいて、私の足を止めた 一気に酔いが冷める …会社の人…? 二人は仲睦まじげに歩き、楽しそうに近くのタクシーに乗って走り去っていく 私はそのままタクシーのテールランプを見送った なんとなく重い足を引きずりながら帰宅する 行雄は帰って来ていない 携帯にも、未だに行雄からの連絡はない もう十二時をまわっている さっきの女の人は職場の人だろうか スーツを着こなし、綺麗な人だったな タクシーでもう帰ってくるのだろうか この間みたいにバルコニーに出て、眼下を眺めてみた 外は恐ろしいくらいに静かだ 行雄が帰ってくる気配はない この広い家で、なんだか幽閉されている気分になった 何でも手に入って、行雄に守られ なんの苦労もない、自由な生活 でもそれは同時に 不自由で窮屈な生活なんだと… つかの間の、自分の自由な時間を手に入れ、孤独に耐えながら思った 結局その日、行雄は帰って来なかった 翌朝普通に起きて、普通にパートをこなし、夕方帰宅した もちろん行雄はまだいない 連絡ないし 朝帰りすらしない 私は怒りがこみ上げていた ご飯はコンビニに買いに行って、独りで食べた 行雄のご飯は作らない そう決め込んで、リビングでテレビをみている頃に行雄が帰宅してきた 「ただいま」 「こんな時間まで連絡しないで、何してたの?」 私は振り返りテレビを消した 「ああ、ごめん…連絡忘れてた 仕事が立て込んでて、仕事場に泊ってたんだ」 「忘れてたって… まる一日以上連絡しないなんて… あり得ない…!」 「別に… 仕事が忙しくて連絡が出来ないことくらいわからない?」 「わからないよ! 連絡するっていう単純なことが出来なくて、仕事が忙しい、立て込んでたなんて信じられない!」 昨日楽しげに、一緒に歩いていた女が頭を掠めたが、すぐに掻き消した 「信じる信じないは奈津美の勝手だろ ちょっと忘れたくらいで、めんどくさいなあ…」 どうして… 「どうしてそんな言葉しか言わないの…? 私はあなたと喧嘩したいわけじゃないのに 私 寂しいの もっとたくさん、あなたと一緒にいたいのに あなたから連絡もなくて どこで… どこで何やってるかもわからなくて… 私たち夫婦なのに あなたから愛を感じない!」 気付いたら涙が溢れていた そのままボロボロ、赤ちゃんみたいに大泣きすると、そっと行雄は私を抱き寄せた 「…寂しい思いさせてたなんて、知らなかった ごめん でも奈津美、そんなこといつも言わないじゃんか」 言わないよ そんな女、めんどくさいだけじゃない 迷惑かけたくなかっただけ けど、あなたはそれに安心してどんどんおざなりに、ワガママになっていった パートで気を紛らわしても、自分の稼いだお金で気ままな自由を満喫しても、ため息ばかり 満たされなかった 寂しかったから あなたがいないから 「連絡するようにこれから努力するし、一緒にいる時間増やすよう、頑張るよ」 彼はそういって頭を撫でた 私は小さく頷きながら行雄の胸に収まる
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